ざっくり雑記

ざっくりとした雑記です

生物模倣

 

科学系ルポルタージュ

 

生物の生理や生態を解明して得た知見や着想から生まれた科学的・工学的な発見や発明の実例や取り巻く現状を丁寧に紹介する。

 

すでに実用化されているものだけでなく、実用化できるかどうか定かでない現在進行形で研究中の斬新なアイデアやテクノロジーも紹介している。

 

自然界には、人類の科学が長年かけて取り組みながら解決の糸口すら掴みかねている諸問題をとっくの大昔に解決している実例に事欠かない。

 

例として、植物の葉は太陽光と水と土というクリーンでほぼ無尽蔵の材料から現行のソーラーパネルと比較にならない高効率でエネルギーを生成しながら、並行して温室効果ガスの親玉である二酸化炭素を分解して空気を浄化するという離れ業を軽々とやってのけている。

 

表紙になっているヤモリは、足の裏のごく微細な皮膚構造が生み出す特異な吸着力により、接着剤を使わず壁や天井を縦横自在に歩き回れ、この構造を模倣した吸着材を使用したカーペットは有害な化学成分を含む接着剤を大幅に削減し、なおかつコストの低減にも成功した。

 

こういったアイデアの発想法やテクノロジーの発明方法はバイオミミクリー(生物模倣)やバイオインスパイアード(生物に着想を得た)と呼ばれる分野を形成しつつあり、近年工業や経済に新たなブレイクスルーやイノベーションをもたらす可能性のある分野として注目されている。

 

人類が手にした科学は、様々な物理法則を解明してテクノロジーとして実用化され人類の繁栄を助けてきたが、数万年、数億年単位をかけて自然界というこれ以上ない実地試験を見事に突破し生き残ってきた種々の生物の文字通り骨身に染み付いた卓越した技巧と比べるとまだまだ失敗だらけの稚拙なお遊びに過ぎないのだというのがよくわかり、謙虚な気持ちにならざるをえない一冊。