ざっくり雑記

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男の作法

鬼平犯科帳剣客商売で有名な時代小説の大家、池波正太郎が、男としての人生訓や生活の知恵について語り下ろしたインタビュー集。

 

インタビューの時期や趣旨からすれば当然のごとく、当世主流のジェンダーフリーな価値観にそぐわない古式ゆかしい封建的な男女の関係性や夫婦の役割、男らしいふるまい方について語っている箇所が散見されるものの、頑迷で押しつけがましい印象を受けないのは、その背景にある当時の文化様式や社会構造を知悉したうえで、その意味や意義を明快に論理だてて説明する、ざっくばらんでありながらも整然とした語り口のせいだろうか。

 

「男の作法」というタイトル通り、食事や商売や冠婚葬祭といった人間関係全般における男性を主軸に置いた作法一般についての語りがメインだが、取りざたされているのは、マナー教室で即席で詰め込まれる薄っぺらな紋切り型ではなく、著者が実社会に揉まれ汗水垂らしながら体得した、血肉を備えた実践的な処世術である。

 

現代や将来の社会にそのまま適用するのが難しそうな、時代背景を色濃く反映した持論や主張も当然あるが、その根底にある人間観や社会観は、古今東西を問わず通用する普遍的な常識や道徳観に裏打ちされており、老若男女関係なく、ひとかどの人物として世間を渡ろうとするならば必須の要件ばかりである。

 

そもそも時代劇のように、明らかに現代とは違う社会制度や価値観、テクノロジーから成り立つ世界に立脚する出来事を、現代人にも面白く感じられるエンターテイメントに昇華するという作業には、時代を隔てて増殖する相違点ではなく、時代を超えてなお健在する共通点を掬い上げる、物事の不変の本質を的確に捕捉し表現する能力が必須である。

 

その作業に卓抜した才覚を発揮し、第一線で活躍し続けた著者であるから、世の中に蔓延するやり取りの本質を捉えて具現化する感覚にも秀でているのだろう。