ざっくり雑記

ざっくりとした雑記です

本を読むときに何が起きているのか

本を読むときに起こっている意識上の現象を詳細に観察して整理分類し、それぞれの現象について、古今の文学の象徴的引用を助けに著者独自の考察を加える。

 

読書中には全く意識しないが、あらためて問われると読書中に意識に起こる現象は非常に摩訶不思議である。

 

目を通過して流れ込む法則に則った記号の羅列が具体的なイメージや抽象的な概念にけ結実し、知識として脳に刻まれたり、感情を揺り動かしたりする。

 

当たり前の行為も、生理学や心理学、現象学など、様々な観点のメスが入ると、緻密な相互作用で絡み合う膨大な数の脳の活動の要素に還元され、さらに要素それぞれが単独でも深い考察の対象となりうるポテンシャルを蔵している。

 

本書を読み込み、その要素について意識する下地を与えられると、読書という行為そのものに対する認識が格段に深堀され、より豊饒な意識体験を読書から得られるようになる。

 

著者は優れた本の装丁家であり、本書ではその視覚的デザインの技術も隅から隅までいかんなく発揮されている。

 

読書といえば、抽象的な文字に込められた情報を読み取る作業であり、本書でもその点を主な論点にしているが、具象的な要素――文字の大小や字体、配置や密度、図解や挿絵、果ては本の紙質や厚みや大きさなども、読者の読書体験を大きく左右する要素であることを、この本の隅々まで行き届いた印象深い秀逸なデザインが教えてくれる。

 

読書体験を解剖しなおすことで、慣れ親しんだ読書体験の質が根底から刷新される、下手をすれば世界の見方が覆る意識的クーデターを煽動しかねない一冊。