ざっくり雑記

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バグる脳

 

バグる脳 ---脳はけっこう頭が悪い

バグる脳 ---脳はけっこう頭が悪い

 

 時に不合理な判断を下す脳の性質について、脳科学者がその原因と対処法について解説した一冊。

 

なぜ脳が単純な確率の計算を間違って不合理な選択をした結果大損を招いたり、ありもしない性的虐待被害の記憶を捏造して無実の父親を投獄するような人生を左右する深刻な間違いを犯すかというと、それは脳に問題があるのではなく、急激に発展した現代社会の状況が、脳が対処を想定する状況から大きくかけ離れているからだ。

 

人間の脳は、何万年も前の野生の世界で、せいぜい100人前後の群れで狩猟採集生活を営むことに関しては優れた機能を発揮していたが、そのころから脳の性能はほとんど進歩していないというのに、社会制度やテクノロジーは驚くべき変貌を遂げた。

 

それは例えば、車の速度を上げたいがために、馬にするように鞭でリアバンパーを叩くような、旧来の方法を新しい技術に当てはめる、ちぐはぐな状況を招くことになった。

 

そんな的外れな操作をしても、速度は上がらないばかりか、リアバンパーを傷つけるという不利益すら生じる。

 

だが、手放せばそれで話が済む鞭と違い、人間の脳の構造と機能はすぐには変わらない(少なくとも数世代か数十世代は)。

 

著者は、脳に刻まれている旧来のシステムと現代社会の間に広がった隔絶の正体を科学の知見を参考にして把握したうえで、旧来のシステムの使い方を意識的に変えて応用するか、欠点を補う工夫やテクノロジーの補助を利用することを勧めている。

 

車と鞭の例なら、鞭でリアバンパーを叩くのをやめて、鞭の柄でアクセルを押せば速度を上げるという目的は達成できるし、少なくともリアバンパーが傷つくという不利益を被らずに済む。

 

本書を読むと、本書の指摘する脳のバグに起因する様々な日常生活上の不都合に心当たりがありすぎて愕然とする。

 

本書の指摘を参考にすることで、そのような不都合の大部分が解消できそうな期待が膨らむ一方で、その不都合の根本原因である、変化しない脳と、対照的に激変の一途をたどる社会制度の複雑さやテクノロジーの高度化の間に際限なく広がり続ける溝の広く深い闇に、不安を抱かざるを得ない。

 

機能は正常なのだが、現代社会という用法・用量に記載されていない特殊状況に放り込まれたがゆえにバグったとしか思えない挙動をせざるを得ない脳に、応急的な居場所を急造し、真の不適合までの時間を稼いでくれる一冊。