ざっくり雑記

ざっくりとした雑記です

死生論

 

死生論

死生論

 

 断固とした骨太の物言いが小気味よくて好きな西部邁の、死と生にまつわる論評。

 

古代ギリシャの有名な警句、メメントモリ(死を忘れるな)のさらに一歩先に踏み込み、死について徹底的に思索を深めることで、死を殊更避けたがゆえに対称を失い迷走する現代人の生の観念の軌道修正を推奨する。

 

本書中に、著者が自身の主張する死生論から導かれる帰結として、将来的な自殺の可能性を仄めかす部分があるが、近年、想定していた状況に陥った著者は、実際に入水自殺を有言実行した。

 

本書中で、三島由紀夫の自決の理由の一つを、自決するという自分の公言に対して責任を取ったからと推測しているが、著者も同じく公言に対して責任を取って自決したあたり、筋金入りである。

 

「100日後に死ぬワニ」が確約された死の予定をあらかじめ提示することで、ありふれた日常風景描写に全く違う印象を持たせたように、本書も、自分の信念に忠実に従って自決した人間の過日の著作として読むと、その文章が発する迫力が全く違う次元のものとして感じられる。

 

とはいえ、けして自殺を称揚する内容ではなく、むしろ生が持つ本来の価値を見直すための論評であり、死はそのために欠くべからざる思索の材料として取り上げられている。

 

無秩序な延命や健康増進といった、死を等閑視した生の充実だけを目指す歪んだ生への中毒から抜け出す解毒剤としての死の性質と処方について、文字通り命を懸けた著者の透徹した思索を追体験できる一冊。