ざっくり雑記

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君たちはどう生きるか

少し前にベストセラーになっていた本書をやっと読む。

 

コペル君という男の子と、その叔父さんのやり取りを通して、哲学的・倫理的な題材をわかりやすく解説する原作の漫画版。

 

コペル君が中学生という年代のわりにとびぬけて賢くて情操が発達しているのか、それともこちらが幼稚なのか、コペル君と叔父さんが取り組む題材や身の回りの出来事に対する発想や判断の水準が随分と高尚で深遠な領域に及ぶ場面も少なくなく、読んでいて時々置いて行かれそうになる。

 

とはいえ文章自体は簡にして要を得ており、(私にとって)難しそうな題材も順を追って懇切丁寧に説明してくれているのでわかりにくいところはなく、さらに漫画のパートがビジュアル面で強力にサポートし、読者のイメージ構築を容易にして理解を助けてくれる。

 

君たちはどう生きるか、と題名で問いかけている通り、本書は生きていくために参考にすべき優良な指針やノウハウを教示しているわけではなく、その指針やノウハウを自ら導き出せる、世界と対峙する人間の自律した態度の養成を促している。

 

情報通信インフラと検索アルゴリズムが飛躍的に発達し、日常で遭遇する大抵の疑問にはほぼノータイムで解答が得られる世の中になった。

 

わざわざ車輪を再発明する必要はなく、学生がアクセスできる情報で原子炉が作れる時代だ。

 

だが本書を読むと、車輪の再発明に至る着想や思考過程にも独特の、そして重要な意義があると感じるようになる。

 

また、目覚ましい文明の発達の渦中にいると勘違いしやすいが、いくら外部環境が進歩しても、個人の人格が陶冶され充実するかは全く別問題であり、その違いに無頓着でいる現代人は、愚鈍で幼稚で有害な獣じみた何かへとたやすく身を持ち崩す危険をはらんでおり、本書ではそういった倫理的な態度の涵養も推奨する。

 

上記のような内容の重要性もそうだが、本作の肝は想定する読者層にある。

 

とにかく、人生の端緒に就いたばかりの若人に届けたいという著者の切実な思いが文章や行間紙背からありありと透けて見える。

 

内容そのものはもちろんのことだが、若人にわかってもらうための物語形式の選択や文章構成の工夫や配慮に注がれた情熱が暑苦しいほどに伝わってくる。

 

後生にああだこうだと恩着せがましく人生訓を煩く垂れるのは、(後生の対義語としての)先生が漏れなく患う厄介な習性だが、本書もその習性の成せる所産であることは否定できない。

 

しかし、それでもそこまで煩く感じないのは、私も後世に煩く説教する習性を患う年代になってしまい、著者に勝手な共感を抱いているからなのか、あるいは、著者に後世への真摯で真剣な期待があるからだろうか。