ざっくり雑記

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気候変動から世界をまもる30の方法

気候変動問題をテーマとする30あまりもの話題を子供向けに分かりやすく解説する一冊。

 

本書には30のトピックが取り上げられているが、気候変動が影響を及ぼす分野が、とてもではないが、そして残念ながら30どころでは済まないのがわかる。

 

科学の見地からすれば、気候変動の元凶が二酸化炭素に代表される温室効果ガスであるのは明々白々で、問題解決方法もシンプルにガスの削減しかないのだが、それらのガスの発生源である生産活動、ひいては経済活動が人間社会とのっぴきならないしがらみで強固に癒合しほぼ一心同体化・一蓮托生化しているがために、シンプルな原因が複雑で錯綜した問題へと紐づけられ手の付けられない巨躯へと肥大し、解決を困難にしている。

 

明確な数字で示されている温室効果ガスの排出量を予定通りに達成しようとすれば、生産活動の総量を急速に激減させるか、現在発明されていない、あるいは発明されていても実用化されていない画期的なテクノロジーの導入により生産効率を劇的に改善してエネルギーの消費を縮小するしかないのだが、前者は人類の生活への負荷が大きく、後者は不確定な技術開発への期待に基づくギャンブルの要素が大きく、どちらの立場から出発して解決策を模索しても、決定打となる最終的な解決策の策定には至っておらず、現状、気候変動の恐ろしく旺盛な勢力と比べると、遅々とした弥縫策が五月雨式に実行されるに留まっている。

 

「気候変動から世界をまもる30の方法」と銘打たれてはいるものの、その大半は気候変動問題の現状や気象学的な解説、気候変動問題が間接的にもたらす経済や食料、政治や人権等、幅広い分野に波及する悪影響に関する問題提起、災害に罹災した土地や被災者への支援活動の紹介等についてのトピックで、実際に「まもる方法」に当たる記述の割合はそれらと比べると少ない。

 

気候変動問題が誰もその影響から逃れえぬ喫緊の課題であるという記者の切実な思いは十分以上に伝わり、感化されもするのだが、さて、では本を閉じた後に自分は気候変動問題に対して具体的にどのようなアクションを起こしたらいいのだろうか、と考えると、問題の文字通り地球規模の壮大なスケールと、多方面にわたる影響範囲の広大無辺さを本書によって思い知らされた後では、そのあまりの途方のなさに圧倒され、無力感に打ちひしがれて呆然と立ち尽くしてしまうというのが率直な感想だ。

 

もちろん、エコロジカルなテクノロジー生活様式を積極的に生活に取り入れて電気やガソリンといったエネルギーを節約したり、食肉や輸入食品のようなエネルギーコストの高い食事を避けて地元の食材を選択したり半自給自足生活に切り替えたり、草木を植えて二酸化炭素の吸収量の増加に貢献したり、気候変動問題に取り組む団体に寄付やボランティアの形で参加したり、気候変動問題に真摯に向き合う政治団体や議員に投票したり、今日明日から個人レベルでもやる気次第で始められる方法は山のようにある。

 

そしてそれぞれの影響は小さくとも、気候変動問題に対して、確実に効果を上げているのは確かだ。

 

だが問題は、それらの方法の実効性の有無ではなく、タイムリミットがあまりにも短く、更には焦眉の距離にまで差し迫っている点、つまり効率にある。

 

様々な研究機関や団体が提唱するタイムリミットまでに各種の数値目標を達成しようとするならば、レジ袋の使用を控えたり、一駅歩いて帰るくらいの個人レベルの草の根活動をいくらより集めたところで焼け石に水の感は否めない。

 

塵とて積めば山となるし、一歩ずつ着実に進めば千里に達するし、地道に継続すれば愚公とて山を動かすだろう。

 

だがそれは解決に当たって所要時間の長短を度外視できる問題に立ち向かう際の悠長な真理だ。

 

気候変動問題は言うなれば、今日明日にでも踏破せねば命と未来が危ぶまれる千里の道であり、あるいは撤去せねば直ちに崩落してこちらを圧殺する山のような、巨大性と緊急性を兼ね備えた厄介極まる問題であり、前述の悠長な真理だけを武器と頼って立ち向かおうとすれば、致命的な先手を気候変動問題に進んで譲る愚を犯す可能性がある。

 

実践容易な草の根活動は、気候変動問題に対抗する有効な活動ではあるが、それはあくまで気候変動問題対策の車を進める両輪の一方に過ぎないことを十分に自覚しておかないと、安易な満足に浸っているうちにあっという間にタイムリミットに追いつかれて足元をすくわれる危険性がある。

 

30のトピックは、数々の試行錯誤と分析検討を経て洗練された、現時点で最先端の内容であるが、同時に出発点でもある。

 

刻々と近づくタイムリミットとの距離に反比例して、問題解決の種類と難易度は飛躍的に増加し、要求される問題解決方法の水準も際限なく高まっていく。

 

より高い水準の問題解決方法を模索し、その実践を考えていくうえで、世界が置かれた過酷な現状を概観する有用な資料となる一冊。

 

コスタリカがエコ分野で先進国となっており、有り余る再生可能エネルギーをどのように交通インフラに転用しようかという、日本からすれば贅沢な問題に頭を悩ましている段階にまで達しているというのは、失礼ながら意外だった。