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PUSH 光と闇の能力者

 

PUSH 光と闇の能力者(字幕版)

PUSH 光と闇の能力者(字幕版)

  • 発売日: 2018/09/14
  • メディア: Prime Video
 

 超能力サスペンスアクション。

 

超能力と一口に言っても数多くの種類がある。

 

触れずに物を動かす念動力(サイコキネシス)や発火能力(パイロキネシス)、瞬間移動(テレポート)や遠隔意思疎通(テレパシー)など、ぱっと思いつくだけでも数多くの種類があり、すでに一般常識として広く人口に膾炙しているが、本作のストーリーで重要な役回りを果たす超能力は、未来予知(プレコグニション)や来歴感知能力(サイコメトリー)、洗脳(ブレインウォッシュ)といった情報や記憶に関するもので、超常の現象ではあるものの、ビジュアルとしては直接的な変化を及ぼさないものばかり。

 

そういったビジュアル的には地味というか無味な超能力を、ビジュアル表現がメインの映画という媒体に採用し、さらにストーリーのメインフレームを中核で支える大黒柱にまで仕立て上げた本作の工夫は一見に値する。

 

例えば本作のサイコメトリー能力者はスニッファーと呼ばれ、その名の通り匂いを嗅いだものの過去の情報を読み取る。

 

匂いを嗅ぐというアクションが差し挟まれるだけでもビジュアルの印象の強さは段違いだが、本作ではさらにそこから一歩踏み込み、表現の深堀りを試みる。

 

超能力を題材とした創作物では、超能力自体が個性と同義に扱われるケースが多く、個性が重複するので同じ能力を持った登場人物は出てこないのがセオリーなのだが、本作ではスニッファーを始めとした他の超能力者についても、同じ超能力の持ち主が複数登場する。

 

同じ超能力者を複数出したら没個性化してしまいそうなのだが、本作では能力行使の様式を差別化することで、超能力にキャラクター性を依存するのではなく、逆に個人の性格や経歴を超能力に反映させて個性を際立たせる効果を得ている。

 

例えばスニッファーが匂いを嗅ぐとき、マフィアまがいの荒くれスニッファーが飢えた野犬が獲物の匂いを貪るがごとく鼻息荒くして嗅ぎまわるところを、占い業を営む上品な妙齢の女性スニッファーの場合は上等な葉巻の香りを堪能するように優雅で洗練された所作で匂いを嗅ぎ、同じ超能力でも全く異なった印象を視聴者に与え、超能力そのものよりその持ち主の個性に注目を集中させている。

 

ストーリー自体に奇抜さや新鮮味は無く、超能力を題材にした創作物にありがちな、超能力を悪用する秘密組織の陰謀に様々な超能力者たちが力を合わせて立ち向かうという王道中の王道の筋書きで、本作が前世紀に発表された作品だったとしても違和感を覚えないほどである。

 

今となっては巷に氾濫し目新しさを失って久しい超能力という題材と、それに付随する既視感バリバリのテンプレートなストーリーを、わざわざ21世紀にクリス・エバンスやダコタ・ファニングといったメジャー級の知名度を誇る役者を起用して映画にするだけあって、超能力の表現手法やストーリーとの絡め方には目を見張る工夫が施され、たびたび感嘆の声を漏らしてしまった。

 

もちろん超能力アクションの醍醐味であるビジュアルエフェクトをふんだんに利かせた現実離れのド派手なアクションシーンもある。

 

特に目を引いたのは念動力を用いた殴り合いで、殴打のインパクトの瞬間に弾ける虹色のハローが、血みどろの肉弾バトルを一種神々しさすら感じさせる美麗な光景にしている。

 

ありきたりの超能力バトルに食傷気味でも楽しめる通好みの作品。