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ハロルドが笑うその日まで

 

ハロルドが笑う その日まで(字幕版)

ハロルドが笑う その日まで(字幕版)

  • 発売日: 2016/11/02
  • メディア: Prime Video
 

 近所にイケアの大型店舗が出店してきた煽りを食って売り上げが低迷し、閉店を余儀なくされた個人経営の高級家具店の家具職人が、腹いせにイケアの社長を誘拐する物語。

 

泣きっ面に蜂、弱り目に祟り目で何もうまくいかないハロルドが、最後の最後に憑き物が落ちたように失笑するシーンでは、北欧の白けた寒空と雪原を背景も相まって、ただただ空虚でひんやりとしたカタルシスの爽快感だけが空間を支配する。

 

誠心誠意を尽くして積み重ね築き上げてきた人生を全否定し奪い去った非業の不遇は、同時にハロルドを自縄自縛し心配や葛藤や不満の種となっていたあらゆるしがらみから彼を解放する解呪の荒療治ともなる。

 

倒産と妻の死という度重なる不運に打ちのめされ生きる気力を失い、自分の店に放火し焼身自殺を図るハロルドと、燃え上がる店内からショーウィンドウ越しに見えるイケアの、世はこともなしといった風情で夜闇を燦燦と照らす電飾看板の対比がシュールで滑稽で美しく、思わず息を吞む。

 

普段慣れ親しんだ日本映画やハリウッド映画とは趣を異にする独特の間や色彩の乏しさ、そして静寂がある。

 

北欧という土地や文化様式に由来する北欧映画特有の雰囲気なのだろうが、感情を激しく揺さぶる刺激に満ちたコンテンツばかりに接して摩耗した神経にはその寂寞が深く染み入り、疲弊と傷を癒す貴重で心地よいひと時をもたらしてくれる。

 

イケアに人生を狂わされた人間が主人公なので、イケアのビジネスモデルや商品の品質をこき下ろし非難する言説が作中にたびたび出て来るが、不思議とイケアに行きたくなる。

 

ステルスマーケティング手法の理想形の一つといっても過言ではないかもしれない。