ざっくり雑記

ざっくりとした雑記です

その一言が歴史を変えた

 

印象深く含蓄のある優れた表現の言説を取りまとめて便利に一覧できる書物は星の数ほど出版されているが、本書は歴史への影響力という観点からそれらをピックアップし、背景と解説を添え、時系列順に整列し紹介する。

 

こうして整理してみると、数多の人間の無節操な相互作用の結果、無秩序に展開し制御不能に陥った歴史の混乱しきった最先端だと思っていた現在が、様々な人物の思想や感想の外力を加えられて、都度軌道修正を受けた、想像よりもずっと明確な意図に基づきデザインされた人工物であるように感じられる。

 

作者不詳の慣用句だと思っていた言説の出所が実ははっきりしていたり、逆に発言者の功績や悪業、キャラクターと紐づけて覚えていた言説が、後世の人間の創作や勘違いだったりと、目からうろこの記述も数多い。

 

歴史上の出来事と、対応する言葉を照らし合わせることで、口先の弁舌やペンの一筆に備わった、歴史をも動かす言霊の神秘の力を垣間見る。

 

本書がピックアップした言説は、筆者が厳選した、歴史へ特に大きな影響を及ぼした50個であるが、人類の歴史と文化の全体が保有し、また影響を受けた言説全体からすればごくごく一部に過ぎない。

 

歴史を動かした言説という分類でくくるなら、日々世間でやり取りされる無数の日常会話や、紙片の片隅に書き殴られ、スマートフォンに入力される些細な章句も、大なり小なり現在進行形で歴史の行く末を左右する「一言」と看做せる。

 

質量もエネルギーも持たない情報媒体である言葉が、世界の在り様を強力に左右する不可思議に、改めて心を打たれる。