ざっくり雑記

ざっくりとした雑記です

ドラマ『ザ・フード ーアメリカ巨大食品メーカー』


f:id:hyakusyou100job:20210527170453j:plain

ザ・フード ーアメリカ巨大食品メーカー

https://www.amazon.co.jp/gp/video/detail/B08R993W2N/ref=atv_dp_share_cu_r

 

どんなドラマ?

アメリカ発祥の有名巨大食品メーカーの興隆を、ドラマ仕立てで紹介するドキュメンタリー。

 

ハインツ、ケロッグコカ・コーラ、ハーシー、マース、ゼネラルフーヅ、ケンタッキー・フライド・チキン、マクドナルドといった、今やアメリカどころか世界中に進出した巨大食品メーカーの誕生と成功の秘話が、時系列に沿った当時の社会背景と絡めて同時並行で描かれる。

 

感想

昨今では、肥満や糖尿病といった生活習慣病を招じる主な要因となる糖分や油脂、塩分を多分に含んだジャンクフードの供給者として槍玉に挙げられることもしばしばな有名メーカーばかりだが、誕生当時の劣悪な食事環境や過酷な社会背景にあっては、これらの企業は多くの庶民に安全で滋養に満ちた美味しい食品を手ごろな価格で十分に供給する、アメリカ国民の健康を大きく改善する救世主的存在だった。

 

中毒性の高いジャンクフードを提供したからではなく、多くの国民の食品に対する切実な希求に答えたからこそ、万民の歓呼の声に迎えられ、超巨大な市場を形成できたのだ。

 

本作中では、各巨大食品メーカーはたびたび「帝国(エンパイア)」と呼ばれる。

 

かつて植民地時代のスペインが、その広大な版図を指して「太陽の沈まぬ帝国」と称されたが、現代ではこれらの巨大食品メーカーが万国の民の胃袋を占領し、21世紀の「太陽の沈まぬ帝国」として世界に覇を唱えている。

 

だが、世界中のどのような帝国の歴史にも骨肉の闘争がついて回ったように、本作で取り上げられる各巨大食品メーカーの「帝国」の歴史もその例外ではない。

 

家族間の利権争いから商売敵との仁義なき競合、アメリカ全土を襲った暴力的な労働争議まで、その内容や規模は様々だ。

 

その中でも個人的に印象深かったのは、ケンタッキー・フライド・チキン(KFC)の創業者であるカーネル・サンダースが、商売敵と銃撃戦を繰り広げ、死人まで出す騒動に巻き込まれたエピソードだ。

 

KFCのマスコットとして世に広く認知されている白づくめの好々爺のイメージと、頑固で血気盛んな実像のギャップは大きく、あのキュートな眼鏡と髭面で散弾銃をぶっ放すシーンにはどう反応していいか困ってしまう(ちなみに死んだのはサンダースの仲間で、サンダースは反撃で商売敵を銃撃し怪我を負わせた。その後、商売敵は殺人罪で収監される)。

 

また、戦争の後遺症を鎮めるモルヒネの代用品として開発されたコカ・コーラがソフトドリンクとしてアメリカ中に普及する経緯や、製法が未完成だったミルクチョコレートに全てを賭け、当時としては画期的な工業都市を巨費を先行投資して作り上げたハーシーの一世一代の大勝負など、耳目を疑う驚異の逸話が次から次に展開する。

 

要所要所で挿入される研究者や作家、コメンテーターの熱のこもった解説が、驚異の驚異たる所以をさらに効果的に強調する。

 

どんどんドラマにのめりこんでいってしまう演出や構成の妙は、糖分や塩分、油分を多量に含むジャンクフードがやめられない、あの中毒性に通じるところがある。

 

終わりに

ほとんど空気と同化し、あるのが当たり前、どこのお店に行ってもいつでも必ず置いてあり、在庫切れなど想像もできない定番の食品たちに、私たちはほとんど注意を払わない。

 

だが、空気が何十億年という年月と生命の神秘に支えられて世界に充満したように、ありふれたものだからこそ、世界を充満する普及の礎は、人智を越えた歴史と奇跡的な巡り合わせ抜きには成し得ない。

 

自動車産業やIT産業など、今や世界規模の巨大産業は珍しくなくなったが、いくら時代が進み、後から産まれた新規の産業が先達を押しのけて先頭に躍り出ても、生命の必需品である食品産業は、ほかの産業とは別格の存在として、第二の空気のように世界に横溢し続ける。

 

それはもしかしたら、地上に存在した数多の国家の中でも、最長の歴史を築く「帝国」になるかもしれない。

 

f:id:hyakusyou100job:20210531160559j:plain

 

鑑賞後、本作に登場した食品が食べたくなって近所のスーパーで一通り衝動のままに買い漁った。

 

生まれて初めてスニッカーズを食べ、濃厚な甘みとヌガーのまとわりつく触感にしびれた。