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映画『1917 命をかけた伝令』

 

1917 命をかけた伝令 (字幕版)

1917 命をかけた伝令 (字幕版)

  • ジョージ・マッケイ
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どんな映画?

1917年の第一次世界大戦におけるフランス戦線で、待ち伏せするドイツ軍の罠に今にも飛び込まんとする連合国軍の前衛部隊を引き留めるため、攻撃中止命令を携え敵陣を突っ切り危険な伝令を務めた二人の若き兵士の決死行を、全編ワンカット撮影で描く。

 

感想

映画を映画として楽しめるタイプの映画好きなら、映画製作に用いられた撮影や演出等に係る技術面の情報を事前に仕入れて、製作スタッフが知恵を絞り丹精込めた珠玉の趣向の数々を鑑賞中に堪能できる。

 

だが、このようなメタ情報の先入観は、映画が作りものの娯楽フィクションだという身も蓋もない一面を強調し、鑑賞者を客観の視座へ縛り付け、臨場感はともかくとして、没入感を損ねる諸刃の刃でもある。

 

その点本作は、全編ワンカット撮影というメタ情報を念頭に置くことで、むしろ映画への没入感が一層深化するという、技巧と物語がものの見事に調和し、絶妙の相乗効果を成す奇跡の一作となっている。

 

全編ワンカット撮影においてミスは許されない。

 

そして、本作において、1600人の生死に関わる伝令を務める二人の兵士もまた、ミスを許されない立場に置かれる。

 

「ミスが許されない」という点で、映画製作の事情と、役柄としての兵士の事情が完全にシンクロし、「迫真」を越えた、「真」そのものの緊張感が、本来作りものであるはずの映画に熱く脂ぎった血潮を通わせる。

 

全編ワンカット撮影において、不慮の事態は排除するに越したことはない。

 

だが、本作ではあえてコントロール不能な要素をそこかしこに突っ込み、事情を知る観客の緊張を煽る。

 

ただでさえバランスをとるのが難しい崩れた橋のトラスの上を渡ったり、いつぐずりだすかわからない赤ん坊と絡んだり、乱流が岩にぶつかり飛沫を上げる急流へダイブしたりと、万全の状態でも一発OKが出ない場合が十分にあり得るシチュエーションが次から次へと役者に降りかかる。

 

それらの難所を一つまた一つと失敗せずクリアするだけでなく、表現者として各々のシーンに込められた意味を抒情豊かに体現するという難行をやり遂げたジョージ・マッケイの胆力と体力は怪物じみている。

 

ワンカット撮影において役者が大変なのは自明だが、裏方の苦労も壮絶だ。

 

 

この短いメイキング動画を見るだけでも苦労が忍ばれる。

 

全編ワンカット撮影という技法の採用で製作スタッフに自ずと生じる本物の緊張感が物語に転移し、よくできたフィクションを、生々しい戦場ドキュメンタリーの次元へ羽化させる。

 

少しでも失敗すれば自分はもちろん、戦友も巻き添えになるという取り返しのつかない連帯責任が、制作の次元でも物語の次元でも重々しい緊張を全編にもたらす。

 

この緊張は観客にも伝播し、息も絶え絶えに奔走する若い兵士を自然と応援し、彼らの幸運を祈りたくなる切なる気持ちを否が応にも駆り立てる。

 

観客を映画の核心へ引き込むために、必要とあらば相当のリスクを請け負い乗り越える、サム・メンデス監督と製作関係者の、筋金入りのエンターティナー魂には頭が下がる。

 

終わりに

技術の命は難易度ではなく成果に宿る。

 

全編ワンカット撮影という技術だけが独り歩きしがちだが、本作においてこの撮影技術は主ではなく、あくまで従にあたる。

 

メインの味を最高に引き出す、恐ろしく凝った付け合わせだ。

 

物語と100%のシンクロ率で、100年前の戦争の渦中にどっぷり浸る、VRも及ばない臨場感と没入感を味わえる良作。

 

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スコフィールドとブレイクの伝令コンビ

余談

ラストシーンの大樹が怖い((((;゚Д゚))))ガクガクブルブル