ざっくり雑記

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映画『ザ・ファブル』

 

 

どんな映画?

伝説的な一流の殺し屋「ファブル」(岡田准一)が、ほとぼりが冷めるまで休業する1年間、一般人として誰も殺さずに「普通」に生活することを師から命じられ、交流のあるヤクザの庇護の下、身分を偽り暮らし始めるが、尋常でない出自と厄介な人間関係が絡み合い、次々と発生する危険な事態に否応なく巻き込まれていく騒動を、ユーモラスに描くアクション映画。

 

感想

オープニングの殺陣がとにかくかっこいい。

 

ファブルの「一流の殺し屋の迅速な思考と的確な判断」を、目まぐるしく空間に投射する攻撃の軌跡と文字情報の羅列で表現し、スピーディでスタイリッシュに映像化している。

 

この映像表現が全編を通して貫かれるかと期待していたが、オープニングだけに終わってしまいやや残念。

 

ただ、骨太のアクションはとにかくスピーディで流麗で見ごたえがあり、そんな些末な不満は気にせず見蕩れてしまう。

 

ファブルを演じる岡田准一の鍛え抜かれた肉体と体さばきがあってこそ成り立つ稀代のアクションは、時に目が追い付かないが、その目にも止まらぬ速度感も、一流の殺し屋という役どころの説得力を強めている。

 

裏社会のアウトローを題材にした創作物にありがちなキャラクターとして、加減を知らない常軌を逸した暴力性を持つ、いわゆる「狂人キャラ」がよく登場するが、本作でもそういったキャラが出てくる。

 

出てくるのは全く問題ないし、出てこないとむしろ味気なくて寂しいくらいなのだが、その数が多い上に十分に差別化されていない。

 

顎を上げて薄ら笑いを浮かべて目を剝いて声を上ずらせて声調と音量に過剰に緩急をつけて自己陶酔に浸り腕を大きく広げるという分かりやすい狂人テンプレートを、出てくる狂人キャラ全員が漏れなく踏襲するので、その演技力の高さとは無関係に没個性に陥ってしまっているのが惜しかった。

 

狭苦しい空間で数十人が入り乱れるクライマックスのくんずほぐれつバトルは圧巻の一言。

 

ちょっとでも下手を打てば渋滞を起こして将棋倒しになりそうな凄まじい人海戦術の人波を、足手まといを引き連れ苦戦しつつもさばいてしのぐファブルの身のこなしには感動すら覚える。

 

岡田准一の顔芸も殺陣に負けず劣らず秀逸であり、五体はもちろん、顔面筋を含む肉体の隅々まで見事に制御している点で、真の意味での肉体派俳優として面目躍如としている。

 

過激なアクションに代表される「動」の場面には否応なく目を奪われるが、日常シーンの抑制の利いた岡田准一の「静」の演技も抗いがたい魅力を放つ。

 

幼少から殺し屋として育てられ、日常場面における感情表現に乏しいファブルの、表に出にくいが確かに存在する感情とその変容を匂わせる微妙な言行の演技は、岡田准一の演技の重点が繊細さに置かれていることを如実に示している。

 

終わりに

『96時間』シリーズや『ボーン・アイデンティティー』に携わったフランス人アクション監督が参加したというだけあって、時代劇の殺陣に流れを汲む他の邦画とは趣の異なったアクションとなっているが、かといって典型的な洋画のアクションかとというとそうとも割り切れない。

 

ベースボールが日本に来て野球になったように、洋の「アクション」と和の「殺陣」が融和して、どちらともいえない何かになっている。

 

生物学の世界では、子孫が親より優れた形質を発現する現象を雑種強勢というが、迫力と繊細さが同居して調和する本作のアクション/殺陣は、その好例に当たる和魂洋才の成果だろう。

 

 文化を色濃く反映した分野はとかく閉鎖的になりがちだが、こういった好結果につながる異文化交流は今後もどしどし進展してほしい。

 

余談

肩から出血して、袖に溜まった血を搾り出す地味な仕草が、妙にリアリティがあって好き。

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邦画特有の人海戦術アクションシーンの傑作