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広告の真髄 ~本『ザ・コピーライティング 心の琴線に触れる言葉の法則』~

 

概要

伝説的コピーライター、ジョン・ケープルズが、実績に裏打ちされた珠玉の広告ノウハウを、実例を交えてわかりやすく解説する。

 

売れる広告とは、売れた広告だ

広告業に携わる人間にとっては必読書と言って差し支えない、金言に満ちた実用書だが、そうでない大多数の人間にとっても本書の内容は非常に意義深い示唆に富む。

 

メディアの発達した現代社会において、広告に触れずに生きることは、空気に触れずに生きることより難しく、ならば少なくとも空気と同じ程度には広告についても理解しておいて損はない。

 

本書は多種多彩な広告ノウハウを紹介する。

 

それだけなら巷に溢れる同類と似たり寄ったりの凡書だが、本書が同類と一線を画す名著として読み継がれる所以は、紹介されるノウハウが全て、その有効性を実証されているという点だ。

 

むしろ、本書の真骨頂は、この「有効性の実証」という一点に集約される。

 

売れる広告とは、売れた広告だ。

 

トートロジーのような言葉遊びに聞こえるが、広告の良し悪しを判定する基準は、商材が売れたかどうかだけだ。

 

どれほど気の利いた美辞麗句を並べ立てようと、どれほど端正なデザインを施そうと、売れない広告は誰がなんと言おうとダメなのだ。

 

ゆえに、広告の有効性を実証するテストが重要不可欠となってくる。

 

本書のほとんどのページに必ずと言っていいほど登場する教訓は、「テストしろ」だ。

 

広告にかけられる費用は限られている。

 

大枚はたいた広告が、売り上げに全く貢献しなかったら目も当てられない。

 

そして、そんな目も当てられない失敗が日常茶飯事なのが広告業界なのだ。

 

ゆえに、「テストしろ」が至極の教訓となる

 

本書は400ページ超の大著だが、400ページを読み通さずとも、最後のページに載った、以下の結びの一文をしっかり理解すれば、本書を読んだ甲斐は十二分にある。

 

 すべてを小規模でテストするまでは、大々的な費用をかけないこと。テストすることで、世の中の実情をきちんと把握しておくことができる。世の中の動きを事前に感じることができる。よいものと悪いものを選別し、役に立つものと立たないものを区別することができる。そして、当たり企画とハズレ企画を見分けることができる。テストを行えば、広告の費用対効果を何倍にもすることができるのだ。

(本分より抜粋)

 

繰り返すが、売れる広告とは、売れた広告だ。

 

優れた広告は、凝った理論ではなく徹底した検証が産む。

 

最後の勝者は、試行錯誤の切磋琢磨を経た歴戦の猛者と相場は決まっている。

 

本書に採用された広告ノウハウは、そんな歴戦の猛者ともいうべき有効性実証済みのものばかりだ。

 

広告の真髄

突き詰めれば、本書の本質は優れた広告ノウハウの集大成というところには無い。

 

もちろん広告ノウハウを学ぶために読んでためになることこの上ない良書であることに議論の余地は無いが、それは肉に当たる部分で、豊満な肉を支えるに足る強靭な骨格は別にある。

 

はやりすたりそのものを取り扱う広告業界においては、どれほど実績のある優れたノウハウでも、激変する環境に取り残され、往々にして時代遅れの骨とう品になる。

 

広告の真髄とは、そのように一過性に消えゆく消費者を魅了し篭絡する手練手管ではなく、流行に合わせて次から次に生まれる広告ノウハウの有効性を厳密にテストする科学的態度なのだと、本書は終始訴える。

 

つまり本書の実態は、広告ノウハウの集大成の皮をかぶった、広告の優劣を判定する試金石なのだ。

 

新たな商材やメディアが登場し、現代では想像もつかない画期的で創意に溢れた形態の広告が業界を席巻する未来が訪れたとしても、それらの広告の有効性を厳密にテストする必要性は変わらずあり続け、そしてそれこそが広告の真の価値を決める唯一の手段なのだ。

 

本屋の店頭に山積みにされ、通販サイトの売り上げランキング上位を独占する数多のコピーライティングのノウハウ本のうち、100年後も読み継がれている本など皆無に等しいだろうが、本書に関しては100年が1000年だろうと関係ない。

 

嘘、おおげさ、まぎらわしいが横行する広告業界というと、部外者からすれば胡散臭く浮世離れしたイメージを抱きやすいが、厳格な自己検証の積み重ねで広告ノウハウを錬磨する著者のストイックで真摯な姿勢に触れると、そういった通り一遍の軽佻浮薄なイメージは払拭される。

 

広告無くして成り立たない資本主義社会に生きる一員として、市場の基礎教養を学ぶ上で、本書は読んで面白い教科書の最高峰の一つだ。