ざっくり雑記

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大いなる博打……本『世界の名作シネマを読みなおす』

 

概要

映画業界の発展や革新に多大な貢献を果たした名作シネマの魅力や功績を時系列に沿って振り返る。

 

大いなる博打

勝手気ままに映画の感想をブログに上げているが、映画を語るのにふさわしい文章作法を身に着けたくて、参考になりそうな本書を手に取った。

 

映画批評というものをあまり読んだことが無いので比較対象に乏しいが、本書の著者が映画への造詣が深く、且つ豊かな感性の持ち主で、鋭い洞察を言語化する明晰な表現力と、重厚な教養を備えていることは分かる。

 

正直、自分にとって本書の批評のレベルは高尚すぎて、無理についていこうとしても息切れを起こしてしまい、置いてきぼりにされてしまった感がぬぐえない。

 

一つの作品に関する批評だけでちょっとした本が書けるほどの知識と洞察を3ページそこそこにパッケージしているのだから、その情報の密度は半端ではなく、私のひ弱な読解力では到底歯が立たない。

 

結局、読解力や教養に乏しい読者の常で、卑近な話題や比喩だけが印象に残る。

 

そんな卑近な話題の中でも庶民的な感覚に強く訴えかけるのは、金の話である。

 

映画製作に莫大な費用が必要なのは周知の事実だが、本書に出てくる名作の大半もその例に漏れない。

 

映画が表現するテーマに深く切り込んだ叙情豊かな解説が本書の肝だが、興味深い製作の裏話が花を添え、中でも制作費に関する裏話は、映画の商業作品としての側面に光を当て、映画と現実世界との接点を浮き彫りにする。

 

突き詰めてみると、映画が当たるかどうかは博打である。

 

それも、大作ともなれば何百人、何千人ものスタッフが関わる大いなる博打だ。

 

実績のある原作や脚本、集客力のある監督や人気の役者、優秀なスタッフを揃えれば、それなりの興行収入は期待できるが、さすがに制作費が何十万ドル、何百万ドルともなってくると、採算が取れるかどうか心許なってくるのが人情だろう。

 

本書が取り上げた作品は漏れなく映画史に燦然と名を残す名作ばかりなので、莫大な制作費を当然のように回収し、目の飛び出るような利益を製作会社にもたらしているが、もちろんそんなことは映画の製作途中では分かるはずがなく、誰もが一抹の不安を抱えている。

 

各種メディアで酷評される大作を目にするたびに、素人感覚からすれば、映画製作というものが、商売としてはもちろん、博打としても割に合う仕事とは思えない。

 

にもかかわらず、多大なリスクを冒してまで映画製作にクリエイターやスポンサーを駆り立てる魅力とはいったいなんなのだろうか。

 

人が創造性を発揮する分野は多々あれど、映画ほど大量のリソースを要する分野はちょっと見当たらない。

 

絵を描いたり歌を歌ったり詩を作ったりダンスを踊ったりすることと比べると、規模が桁違いに大きい。

 

タバコや麻薬のような、理性を麻痺させ、極めて強力な中毒性をもたらす未知の生理的刺激が、映画製作からは分泌されているのだろうか。

 

本書自体がその答えなのかもしれないが、残念ながら私の力量では読み解けなかった。

 

ただ、答えが分からなくて安堵してもいる。

 

答えを知ってしまったが最後、私もまた、映画製作の魅力に取り込まれ、大いなる博打の犠牲者になってしまうだろうから。