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資産ならざる資産……本『金持ち父さん貧乏父さん アメリカの金持ちが教えてくれるお金の哲学』

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概要

マネーリテラシーに精通した金持ち父さんと、教養はあってもお金にうとい貧乏父さんの生き様を比較対照し、実用的なマネーリテラシーの真髄を分かりやすく学べる本。

 

納得しづらい

お金持ちになる秘訣を謳うおびただしい数の書籍の中にあって、群を抜いて著名なベストセラー。

 

ボリューミーだが、本書が教示する金持ちになる秘訣はシンプルで、「負債を減らして資産を増やす」の一点張りである。

 

ワンセンテンスで済むノウハウが、なぜこんな大部になるのか。

 

それは、「負債を減らして資産を増やす」というノウハウが、非常に納得しづらいからだ。

 

難解なのではなく、含みがあるわけでもなく、言葉に裏があるわけでもないが、納得するのがとことん難しい。

 

このシンプルなノウハウを教えるために、著者のロバート・キヨサキ氏は、モノポリーに似たその名も「キャッシュフロー」と銘打ったボードゲーム形式の教材を開発し、それを用いた金融リテラシーコーチング事業を展開している。

 

 

このゲームは、「負債を減らして資産を増やす」という原理が理解できていれば勝てるルールなのだが、大の大人でもこれがなかなか難しいようだ。

 

それどころか、頭脳労働者階級の上位に君臨する医師や弁護士、果ては金融の専門家である税理士や銀行員ですら、「負債を減らして資産を増やす」という秘訣が理解できずに知れきった敗北を喫するというのだから、たちの悪い冗談のようでもある。

 

だがこれは冗談ではないし、そもそも冗談で済ませていい軽々しい問題でもない。

 

この秘訣に納得できないことは、貧乏からの脱出不能を意味するからだ。

 

この秘訣に納得できない人々は、たとえ高い地位にある高給取りでも、毎月末になると家賃や保険料、各種公共料金や学費、クレジットカードの請求書の支払いに追われてろくろく貯えができず、常にお金の心配をして過ごす慢性的な金欠病に苦しむことになる。

 

資産ならざる資産

なぜこんなことになるのか。

 

それは、秘訣が指す「資産」の意味を履き違えているからだ。

 

金持ちの一般的なイメージは、いわゆる派手好きの浪費家で、広々とした豪邸に住み、煌びやかな宝飾品や衣類で身を飾り立て、高級車を乗り回し、毎夜パーティーを開き、海外旅行に頻繁に出かける、そんな生活スタイルの人々だろう。

 

だが、そういった人々の正体こそが貧乏父さんであると金持ち父さんは看破する。

 

彼らが資産だと思ってせっせと買い込んでいる豪邸や高級車や宝飾品は、貯蓄を妨げ食い潰す、紛れもない負債なのだ。

 

ロバート・キヨサキ氏にマネーリテラシーを叩き込んだ金持ち父さんの定義によれば、資産とは「資を産むもの」、つまり「利益を産み出すもの」だ。

 

例えば賃貸用の不動産や、株式、国債などが資産にあたる。

 

それ以外は全て負債だ。

 

豪邸も高級車も宝飾品も、買ったその瞬間に価値が下がり、それ以降何の利益も産まない負債であり、財産を消耗する一方で増やしはしない。

 

もちろん、買値以上の売値を見込んで購入する財テク目的の消費財はこの限りではないが、貧乏父さんが買う高級品は大抵の場合、いわゆる地位財と呼ばれる、単に自分のステータスを誇示するための負債に過ぎない。

 

資産ならざる資産という誤解から解放されることが、金持ち父さんへの第一歩となるのだ。

 

だが、その第一歩が最も難しい。

 

知ったように本書の要約を記述している私にしても、実のところ、この第一歩を踏み出せていない。

 

これは理論の問題ではなく信念の問題だからだ。

 

人間の脳には癖があり、直感的には理解しにくいものがある。

 

天動説はそのいい例だろう。

 

地球上から見れば、不動の大地の上を太陽が昇り沈みしているようにしか見えないが、実際は地球の方が太陽の周囲を公転しつつ自転している。

 

誰でも知っている非の打ちどころのない科学的事実だが、それが分かっていても、太陽が動いているように見える主観的な印象の払拭は難しく、心底からの納得を阻む。

 

産まれたときから幾度となく太陽が頭上を通り過ぎ沈んでいく様を見続けてきた経験則が邪魔をして、科学的事実に基づく適切な認識が難しくなっている。

 

高級車が資産に相当しないことは本書を読めば重々分かるのだが、それでもいざ高級車を前にすると、そんな小理屈は吹っ飛び、高級車を所有することが金持ちの条件であるように思えてしまう。

 

これは幼少期から刷り込まれたマーケティングや学校教育の強力な暗示の成果だ。

 

TVやラジオやウェブが繰り返し繰り返し執拗に垂れ流す購買意欲を掻き立てる刺激的なCMや、教育機関が朝から晩まで丹念に刷り込む消費至上主義の価値観に、骨の髄まで毒されているのだ。

 

本書の内容における比重としては、金持ち父さんになるための具体的な秘訣の解説に割かれている割合よりも、長年にわたって染み付いた固定観念の毒の浄化にあてられた割合の方がはるかに多く、比率を考えると後者の方が本体といった方が正しい。

 

新しいことを覚えるのと比べて、古い思い込みを取り除くのははるかに難しい。

 

本書を読んで、老犬に新しい芸は教えられないということわざの意味を実感する人は少なくないはずだ。

 

経済的成功法則を教えてくれる教本は数あれど、老犬に新しい芸を教える難しさを踏まえ、知恵そのものよりも教授の過程に重点を置いた本書は、実用性において類書より頭一つ抜けている。

 

自己啓発本を何十冊何百冊と読破しても、人生が何一つ好転せず、うだつが上がらない自己啓発難民が一定数いるが、私はその中の一人だ。

 

色々と原因は考えられるが、その中には、既に刷り込まれた信念が新しい知恵の習得を邪魔している場合があるだろう。

 

既に知っていることはなかなか認識しづらいが、本書はその刷り込み済みの信念に光を当て、白日の下に引きずり出し、容赦なく対処するための機会を提供する。

 

これを機に、私の信念の中核に根深く食い込んだ「貧乏父さん」を何とかして駆除したいが、まだまだ時間がかかりそうだ。