ざっくり雑記

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ビーチ

ネタバレ注意。

 

東南アジアを歴訪する旅慣れた英国青年リチャードは、タイのある街の宿で、怪しげな風体の男の隣部屋になる。

 

翌日、男は自殺死体となって発見されるが、その縁もゆかりもない見ず知らずの男は、リチャードに「ビーチ」という名前の場所の位置を記した地図を遺していた。

 

巷のうわさで、東南アジアに点在する数千にも上る島の中に、いまだ西欧の旅行者の手あかのついていない地上の楽園とも言える島があるという情報を得たリチャードは、その地図に記された「ビーチ」こそ該当する島であると信じ、旅の道連れとなったフランス人カップルとともに新たな刺激を求めて「ビーチ」を目指す……

 

レオナルド・ディカプリオ主演で映画化されたザ・ビーチの原作小説は以上のような導入で始まる。

 

日常のちょっとした息抜きとして外国を訪れる「旅行者」ではなく、ひたすら刺激を求める性質がゆえに一か所にとどまれず諸国を遍歴する「旅人」たちが行き着く、退屈な日常の対照となる理想の楽園として「ビーチ」は描かれる。

 

だが、旅人をひきつけてやまないその理想郷は、皮肉にも、訪れる旅人が増え混乱の度合いが増すごとにその魅力を失っていき、理想とは程遠いありふれた現実の一部に堕落してしまう。

 

醜い現実から逃避して南国の美しい楽園への脱出に成功した特権階級になったつもりのリチャードたちだったが、清浄な楽園はいつしか彼ら自身が持ち込んだ現実に容赦なく侵食され、逃れてきたはずの醜い現実へと変貌して楽園の住人たちを飲み込み、血反吐にまみれた狂気のるつぼと化す。

 

理想を求めるがゆえに理想を壊してしまう人間に組み込まれたジレンマが招いた悲劇が、南国の美しい自然を背景に生々しく活写されている。

 

やっぱり家が一番。