ざっくり雑記

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奴婢訓

召使い一般における処世訓を列挙した18世紀初頭の叙述。

 

著者はガリヴァー旅行記で有名なスウィフトで、本書はその未完成の遺稿をまとめたもの。

 

貴族や富豪にこき使われる召使いは、一見奴隷同然の境遇だが、視点を転ずると、主人の生活の一切を掌握し統括し代行する、いわば家政の絶対権力者でもある。

 

当代一流の風刺の名手であったスウィフトは、召使いの社会的劣位と実質的優位の間にある、権力の見えざる逆転状態を、処世訓を装って面白おかしく皮肉っている。

 

説得力のある格式ばった語調で懇切丁寧に述べられ、もっともらしく理論づけされた数々の処世訓は、目からウロコのお役立ち情報に見えるが、よくよく読み込むと、どれもこれも突拍子もない無茶ばかり。

 

真に受けて実践しようものなら、どれ一つをとっても、とんでもない惨事に必着するであろう、善意に偽装した巧みな嫌がらせそのものだ。

 

この文才が、情報の拡散効率が格段に向上した現代のIT環境で発揮されていたらと思うと恐ろしくなる。

 

本書に一緒に収録された、国家規模の窮乏の解決策としてカニバリズムを推奨する「私案」も、明らかに誇張された風刺であるにも関わらず、「処世訓」同様の無視できない説得力を有し、ややもするとその主張に迎合したくなる気持ちが湧いてきて、背筋が冷える。