フライボーイズ
第一次世界大戦のフランス空軍アメリカ人部隊とドイツ空軍の原始的な航空戦をメインに描いた戦争映画。
登場人物の一言一句、一挙手一投足が細大漏らさず全部死亡フラグとしか思えず、全編通して死が色濃く付きまとう作品となっている。
実話を元にしているというが、個性的な飛行士たちや彼らの数奇な運命よりも、宿舎で放し飼いになっているライオンが一番の驚きポイント。
戦争中では貴重な、心休まる宿舎でのくつろぎタイムも、ライオンが画面の端にちらつく度に、観ている側にはドッグファイト並の緊張感が生まれる。
プロペラ機による航空戦は、近代のジェット戦闘機やそれに比肩する高速・高機動物体による航空戦と比較すると速度感や変化に乏しく、のんびりとしてのどかですらあるが、ぼやぼやしているといつの間にか逃げ場のないチェックメイト状態に陥る駆け引きの静謐な緊迫感や、脱出装置の欠如、技術レベルの低さから頻発する機銃の弾詰まりに代表されるマシントラブルなど、テクノロジーやストラテジーが未成熟だからこそ生じる特有の要素の取り合わせが、単なるスピード感からは得られない、別種のスリルを生み出し観る者を十二分にハラハラさせてくれる。
大多数の歩兵が血みどろの混戦を呈する陸戦と比べると、航空戦はどこか別世界の出来事のように映る。
無機質で人間味が薄く、忙しく命が消費される地上とはテンポのずれたどこか緩慢な時間の中にあり、戦闘機乗りが悠長に敵味方で一昔前の騎士のように個別の恩讐を応酬する、陸戦とは隔絶した独自の世界、というか文化圏を形成している。
本作ではその文字通り浮世離れした世界で繰り広げられる命と意地を懸けた戦いの様子が活写され、観る者を独特な死生観と文化が支配する世界へと引き込み次第に同調させ、まるで自分もフライボーイズの一員であるかのように錯覚させる。
同時代の航空機乗りを描いたジブリアニメ「紅の豚」で、宿敵との決戦を翌日に控えたポルコロッソが、夜通し不良品の弾丸を愚痴りながら選り分けるシーンが、当時の航空機乗りの悲哀と時代背景を象徴していて好きなのだが、本作でも、曲がって成形された不良品の弾丸を愚痴りながら選り分けてバケツに捨てる同様のシーンがあって、思わずニヤリとしてしまった。