ざっくり雑記

ざっくりとした雑記です

本『死物語 下』

どんな本?

化物語モンスターシーズン最終章下巻。

 

上巻の感想はこちら。

 

hyakusyou100job.hatenablog.jp

 

 

かつて蛇に呪われた少女、千石撫子は、呪いの大元である洗人迂路子(あらうんどうろこ)と会い、因縁に決着をつけるため、臥煙伊豆湖の指示を受け、パートナーである斧乃木余継と腐れ縁である貝木泥舟とともに沖縄は西表島へ赴く。

 

感想

上巻が目に見えない感染症による緩慢な死がテーマだったのに対し、こちらは目に見える過酷な自然環境によるド直球な死がテーマとなる『死物語』。

 

上巻の構成を踏襲してか、本シーズンの裏ラスボスに相当する洗人迂路子との対決そのものの分量は体感的には少なめで、撫子の無人島(?)サバイバルの精細で稠密な描写が紙面の相当の部分を占める。

 

文明社会から切り離された一人の少女が、命からがら絶海の孤島で生活基盤を一から構築するドキュメンタリーとしては出色の出来で、呻吟の末に、初めて火を手に入れるパートは涙なくしては読めない。

 

純粋な過酷さでは、千石撫子はシリーズを通して一番リアルな苦労を強いられたキャラクターかもしれない。

 

本書の冒頭で、千石撫子というキャラクター誕生のコンセプトと、その後の肉付けについて、メタ的な解説、もといぶっちゃけ話が、型破りにも本人のモノローグで語られるが、他のキャラクターと比較すると薄弱だったキャラ付けを、後付けで埋めて横並びにしようとした反動が、この虐待じみた現状の遠因となっている。

 

化物語のヒロインに共通する基本コンセプトに、「被害者であり加害者でもある」という設定があると作中で明言される。

 

千石撫子には「被害者」の面しか無かったと明かされ、アニメ化の恩寵で人気が出たことを受け、他ヒロインとの人間味の深みをそろえるため、加害者の特性を獲得し、あるいはそれぞれの特性をより顕著にする、あれやこれやの物語が付加されたようだ。

 

人間性を陶冶するための修行パートや苦労パートはお約束だが、漫画家志望の文系引きこもりをいきなり無人島生活にぶっこむという展開はハードそのもの。

 

作者お得意の冗長なまでに精細な描写がその労苦を隅々まで網羅している分、痛々しさは格別で、読んでいて胸苦しくなるほど。

 

しかも文字通りの裸一貫で漂着したとあっては、無人島生活に加えて原始生活のハンディキャップまで負う二重苦だ。

 

サバイバルに精通した専門家でもなければ早々に音を上げ、あるいは音を上げる間もなく死んでいてもおかしくない、掛け値なしの死線に臨んでいる。

 

ただ、その見返りが死線に見合ったものだった点が救いだ。

 

メタ的にも救いだったし、物語的にも色々な意味で救いとなった。

 

陰陽、表裏、葛藤、矛盾、優等劣等。

 

レイニー・デヴィルや忍野扇と同質の、二元性に出自を持つ怪異の中でも極めつけであり、「なんでも知っているおねーさん」こと臥煙伊豆湖すら「迂回した」、洗人迂路子に、二元ならぬ二次元のエキスパートである漫画家(志望)の千石撫子がカウンターとして対峙する展開は熱い。

 

終わりに

時系列は上巻と前後するが、スタートが後発だった分、化物語ヒロインの中でも著しく成長した千石撫子の怪異専門家としての一応の修成と、漫画家としての門出を描いた本作は、徹頭徹尾、シーズンの末尾を飾るにふさわしい区切りとなっている。

 

年頃の少女が全裸で無人島生活という、倫理上映像化不可能な内容なのが残念でならない。

 

シャフトの美麗な作画で、火を得るために無限ピッチングマシーンと化した千石撫子の流麗な投石フォームをアニメーションで一目拝みたかった。