ざっくり雑記

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それでも、日本人は「戦争」を選んだ

近現代史の専門家が、日本が関わった戦争をテーマに中高生に向けて行った講義をまとめた一冊。

 

日清戦争から太平洋戦争に至る戦争のいきさつやその意義を、豊富な史料を駆使し、時系列に沿ってわかりやすく説明している。

 

講義の対象は中高生だが、受講生たちは偏差値の高い名門校の学生である上に、歴史研究部のメンバーなどを中心とした歴史の素養のある人選で、講義内容も高水準の質疑応答を交えて考察を深めていく形式となっており、通り一遍の歴史の概説には収まらない。

 

本文が500ページに迫るボリュームを誇る原因は、歴史というものがそもそも膨大な事実の相互作用から構成されるからである。

 

歴史のディテールを過不足なく誠実に記述し、さらに一定水準の分析を加えて、さらにさらに若い世代に理解しやすい形式に整理しようとすれば、おのずとボリュームは膨張の一途をたどる。

 

それゆえ、単純明快を好む人間の性向は歴史とのまともな対峙を避ける。

 

煩瑣な細部を恣意的に省き、難解な部位をそぎ落とし、醜い形状を包み隠し、飲み込みがたき毒を抜き、そしてようやっと認識の食卓へ供されるも、手を付けられすらせず、忘却の彼方へ廃棄されることも日常茶飯である。

 

ある史実に対して、正しい歴史認識というものがあるのかどうかは正直確たる結論を持てないが、本書にはその判断に至ろうとする具体的な努力の一つの形が示されている。

 

歴史の分析に用いられた資料は、重要な会合の議事録や統計データだけでなく、市井の人々の日記や関係者の書簡、諸学者の論説など、公的私的、古今東西を問わず網羅的に駆使され、戦争の正確な実態を多面的な視点から見極めようとする真摯な取り組みの痕跡が読み取れる。

 

戦争の是非を問う前に、そもそも戦争とはどのような現象だったのかを正確に補足しようとする理性的な態度とはどういうものなのか、その実例がよくわかる一冊。