ざっくり雑記

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政治家の覚悟

第99代内閣総理大臣菅義偉が2012年に刊行した著書の一部と、官房長官時代のインタビューを再収録した一冊。

 

議員になった経緯や、横浜市議、総務大臣時代に手掛けた政策のあらまし、そしてそれらの政治判断の根拠となる政治信念について記述する。

 

テレビやインターネットニュースレベルのマスメディア情報としか接していないと、政治家が普段どのような仕事をしているのか、その全容どころかごく一部でさえ把握できないと思い知らされる。

 

もちろん本書は政治家本人側から見た自身の功績(と失策)についての記述なので、基本的にはいいことばかりの羅列であり、世間から非難囂々だった政策についても、理路整然とした言い分が述べられ、本書だけを参照するなら、菅義偉総理は、日本国総理として非の打ちどころのない政治信念と手腕の持ち主だと思って間違いない。

 

我々の生活の地盤を整え、将来を左右する判断を下す権限を持つにも関わらず、政治家が普段何をやっているのかについて、国民が主に触れる情報源は、圧倒的アウトプット能力を誇るマスメディアに偏重しており、そのマスメディアは報道倫理というより視聴率を稼がなければならないというインセンティブに突き動かされ、数多くの情報と無限の解釈の中から特にセンセーショナルな情報を恣意的に切り取り解釈し、スキャンダラスに編集してお茶の間に届ける。

 

有名な心理学の理論であるプロスペクト理論によれば、人間は利益よりも損失に敏感に反応し、過大に評価する。

 

ゆえに、視聴者の関心を引き寄せなければならないマスメディアが視聴者の不安をあおる情報を偏重するのも無理はない。

 

結果、政治家に関するニュースも、視聴者である国民の不利益を招く政治判断や醜聞ばかりに偏りがちだ。

 

マスメディアが垂れ流す批判報道の洪水にもみくちゃにされながら、政治家の功績について知ろうと思えば、政治家自身の自画自賛ですら貴重な情報源にならざるを得ない。

 

本書は、マスメディアが処方する不安感を煽る大量の興奮剤的情報の作用をいくばくかでも中和し、政治的な視点のバランス感覚を回復する鎮静剤的情報源として役立つ一冊である。

 

ただし、この鎮静剤がもたらすバランス感覚のどの部分が真の効用で、どの部分がプラセボ(偽薬効用)なのか、その点に注目して用法・用量には十分注意しなければならない。