ざっくり雑記

ざっくりとした雑記です

知識人とは何か

 

知識人とは何か (平凡社ライブラリー)
 

正否を十分に吟味されず無批判に大勢が受容する幻想にも等しい合意を打破する「知識人」について著者の視点をまとめた一冊。

 

衆愚に対するカウンターが著者の言う知識人。

 

専門家や国家といった集団を動かしその命運を左右する力を持つ存在の暴走と、それらに扇動され本質的な暴徒と化した人々を抑止する安全弁的存在として知識人は振る舞う。

 

幼稚な自己承認欲求の発露である益体のない反対のための反対に固執する天の邪鬼ではなく、多数派を押し流そうとする通念が普遍的で有益な正当性に裏打ちされたものか否か徹底的な検証を加え、その誤謬が証明されれば臆することなく糾弾し修整や代替を図る、卓越した思慮と独立不羈の勇気を兼ね備えた傑物が知識人である。

 

知識人なくしては、人々は無分別な空気に流され必然的に過ちを犯す烏合の衆へと難なくなく成り下がる。

 

信憑性の定かならぬ情報やさしたる根拠もない指針がマスコミやソーシャルネットワーク上に現れ提示されるたび、コロナ禍で動揺する自分を含めた人々が大挙して右往左往する狂奔の渦中に揉まれていると、こういう危機的状況にこそ本書で語られる知識人の存在が必要であると痛切に実感する。

 

正しい見識と冷静な判断力を持った人間は相当数いるとしても、物理的・精神的な暴徒と化したマジョリティに独り、あるいは寡兵で真っ向から立ち向かい押し留める気骨と力量を兼ね備えた人間というのは、現状を見るに滅多にいなさそうなので、ただただこの騒ぎが無事に収束してくれるのを祈るばかり。