ざっくり雑記

ざっくりとした雑記です

格差は心を壊す 比較という呪縛

所得や階級に代表される様々な格差が人類に及ぼす広範にして深刻な悪影響の正確な正体を、膨大な資料を引用して深く洞察し、格差問題解決のヒントを引き出す。

 

所得や階級に限らず、体力や知性、容姿や健康、品性や財産、教育や宗教、学歴や家柄、職業や人脈、知識や技能、名声や功績、etc、etc……格差が問題となる分野のリストはどこまでも続く。

 

だが、どの分野の格差がどれぐらいの程度なのかは問題ではない。

 

格差そのものが問題だ。

 

格差についての無知はもちろん、格差について多くの、そして大きな誤解もまかり通り、解決を難しくしている。

 

例えば、格差は個人の生まれつきの能力や努力を反映した結果という誤解。

 

例えば、格差は競争を促し活力みなぎる豊かな社会を築くという誤解。

 

例えば、格差は人類に普遍の性質であるという誤解。

 

格差は人類の大多数を苦しめる身近でありふれた日常の脅威でありながら、その正確な正体や所在を把握するのは難しく、ともすれば対策の努力は無知や誤解に基づいた的外れな対象や場所に投入され、無駄に終わる。

 

限られた資源と時間を有効な対策に集中するためには、格差について理解を深めなければならない。

 

本書は格差を理解する強力な座右の書となる。

 

格差問題の何よりも厄介な点は、タイムリミットだ。

 

格差の拡大は、格差を拡げてさらに優位を強化しようとする富裕層と、格差を埋めて少しでも劣後を解消しようとする中間層や貧困層、つまり全人類に際限のない所得の向上を迫る。

 

所得の向上には生産活動が必須だが、現代の生産活動にはCO2の排出量増加が招く気候変動が漏れなく付いてまわる。

 

資本主義に則り、格差の拡大を野放しにすれば、早晩気候変動が臨界を迎え、人類の存続が危うくなる。

 

事ここに至り、格差は社会問題の枠を超越し、人類の存続を左右する喫緊の環境問題へと変貌する。

 

地球規模の気候変動を招いた人類の飽くなき生産活動の根源が、格差問題、ひいては優越を希求し劣後を忌避する一人ひとりの感情だと本書は喝破し、格差問題の解決が環境問題の解決に直結する論理の道筋を明確に示す。

 

悪癖や悪習を改めるに、それらが招く不利益を突き付けて恐怖を煽り更生を促す方法があるが、本書もその方法を踏襲し、格差の恐ろしい悪影響をこれでもかこれでもかと並べ立て、読者に早急な意識改革を迫る。

 

もはや、穏便な表現で平等を優しく諭し、社会の成熟をゆるりと待つ段階は通り過ぎてしまったのだと、腹を決めざるを得ない。