社会心理学入門
社会という枠組みの中で個人や集団の心理がどのように働きどのような行動に結びつくのか解明する学問である社会心理学の基本について解説した入門書。
昭和33年初版、約70年前の本だが、文章、内容ともに読解困難なところや違和感なくすらすら読み進める。
明瞭な文章については筆者の筆力や構成力によるところが大きいと思われるが、70年を隔てて現代の感覚で読んでも内容について大きな違和感がないということは、出版当時から現代にかけて、社会心理に大きな変容は起こっていないということを意味する。
加速度的に進歩するテクノロジーや激変する社会情勢の急流に乗って、人間そのものも大きく変化しているように錯覚しがちだが、その本質はほぼ70年間そのままである。
実態は、周囲の背景を動かすことで自身が動いているように錯覚させるアトラクションに閉じ込められてよろめき転びそうになるのを必死に耐えているのが人間の普遍的な本質なのかもしれないと気づかせる一冊。
錯覚アトラクションに閉じ込められている状況から抜け出すことはできなくても、動揺が錯覚からくるものだと理解すれば、落ち着いて安定を取り戻せるかもしれない。
新型コロナに係る諸々の混乱や騒動も、本書が解説する社会心理学の分類や分析を参照すると、曖昧模糊として錯綜したその実体が目に見えて明瞭になる。
それを問題の解決に繋げるにはまた別の努力を要するが、少なくとも不安の解消によって冷静さを取り戻してことに当たれるようにはなるだろう。