扇物語
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物語シリーズの28作目、らしいが、多作な上に、コラボがあったりメディアミックスされたり番外編があったりで、ナンバリングの意味が薄らいでいるシリーズの最新作。
以下ネタバレ注意。
扇物語と銘打っているが、当の忍野扇はオブザーバーの立場に堅く座し、主役というか主題はまた別となっている。
今作の主題は「謝罪」。
ことの軽重はともかく、日常生活のやり取りで特に意識することもなく用いられる意思表明の一種だが、西尾維新の手にかかると謝罪という、一見すると広げようの無さそうな概念だけで本が一冊出来上がってしまう。
「謝罪」という行為について、ここまでとことん突き詰めて考えた人間はいるのだろうかと畏怖を覚えるほど本書の記述は微に入り細を穿ち、「重箱の隅を分子レベルでつつく」かのごとくその考察は網羅的であり、生半可な意見を差し挟む余地は皆無である。
もしかしたら哲学や心理学、社会学の学問分野で、謝罪行為について本書レベルかそれ以上に深く突き詰めて研究した先達は居たかもしれないが、その探求の過程や顛末の仔細を物語に違和感なく織り込んで、万人向けのエンターテイメントに結晶化した作家は、古今東西広しといえどそうはいないのではないだろうか。
と思ったが、謝男というマンガが既にあったので前言撤回。
とはいえ題材は同じでもベクトルやドラマツルギーは全く違うので、ほぼ別物といってもいいだろう。
人口に膾炙するという点で、本シリーズで取り上げられてきた化物たちの中でも、「謝罪」というするにしろされるにしろ、社会に身を置く誰もが避けては通れないありふれて溢れかえっている行為から発生した今作の化物は、シリーズを通しても群を抜いて厄介で恐ろしく、いつも以上に一筋縄ではいかない。
人柄にもよるだろうが、本書読了後にはいろいろと考えさせられて、これまでのように軽率には謝罪できなくなってしまうだろう。