ざっくり雑記

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日本企業の勝算

本作は、低迷する日本経済の再興のための方策を、データの綿密な分析を元に提案する。

 

著者は元ゴールドマンサックス金融調査室長ということで、そのデータ分析力は圧巻で、一方で大量の情報を取り扱っているにもかかわらず、論理展開の明快さは読んでいて小気味よく、ページを繰る手は小気味よくすいすいと進む。

 

膨大なデータを材料に丁寧に展開する論理は重厚で、本の分量としては400ページ超の厚みに達するが、その主張する結論はシンプルで、「多すぎる中小企業を減らすか、中堅・大企業に成長させれば生産性が向上し日本経済は上向く」というもので分かりやすい。

 

そのためには、現状の中小企業優遇政策の撤廃や是正、最低賃金の引上げなど、具体的な政策方針の転換を提唱する。

 

日本では、場末の町工場や個人経営の小さな小売店が細々とつつましく頑張っている状況に同情的で、そういったか弱い立場にある労働者層を経済的に優遇する政策を手厚く整備している。

 

この方針は感情的には正しいように感じられるが、データを紐解き理性的に分析すると、それがかえって生産力の浪費を招き、労働者をひっ迫し、ひいては日本経済を停滞させている主要な原因の一つであることが本書では示唆される。

 

日本の手厚い中小企業優遇政策は、弱いものを守っているのではなく、弱いものを弱いままで良しとし、国際的な競争力の獲得を阻害する企業風土を醸成してしまっている。

 

子供への愛情は称賛されるべきだが、かといって甘やかして何も教育しないで未熟な弱者の状態に留め置いては、かえってその子にとって害であるばかりでなく、世の中を改善する可能性を開発しないまま腐らせてしまうという点で、社会にとっても大きな損失であるのと同じことである。

 

これから少子高齢化がさらに加速度を増して進行し、社会福祉負担割合が増大する日本にあっては、中小企業が健全に成長し、中小企業という生産性の低いレベルを脱却することを推奨する政策への転換が急務であるということが、身に迫る現実として実感できる啓蒙の一冊。