ずる 嘘とごまかしの行動経済学
行動経済学の研究で一世を風靡した著者が、人間の不正行為のメカニズムを様々な観点から解き明かす。
人間行動における合理性を否定し、その実態を如実に捉える学問である行動経済学の様々な研究を通して、不正行為、いわゆる「ずる」を人間が犯してしまう背景にある、表層的で単純な合理性では説明できない、真の動機や心理を探り出す。
本書で俎上に上がるいくつもの研究において、人間が不正行為に手を染める可能性を高めてしまう様々な条件が明らかにされている。
条件はバラエティ豊かで色々な要素を含むが、どの条件も共通して持っているのは、ずるが悪いことであるという認識を弱める力である。
意外にも、ずるをするたいていの人間は自分のことを悪い人間ではなく、むしろ善良な人間であると思っている。
ずるというのは、法律や道徳に照らし合わせた時に不正な行為でありながら、実行者が善良な自己イメージを損ねない場合に限り、初めて実行に移される行為である。
つまり、本人の中で行為の正当性が保たれているからこそ行われるのだ。
身近な例でいえば、他人が赤信号を無視して横断歩道を渡っているのを見て自分もそうしてみたり、愛想の悪い店員が間違えて釣りを多めに渡してきたときは、その不快感の埋め合わせとしてそのまま受け取ってしまったり、不正行為が仲間の利益にもなるときには利他的な善意から不正行為をしてしまうといったケースがあげられる。
不正行為を犯す心理的メカニズムの古典的な説明としては、不正が摘発された場合のリスクと、不正から得られるメリットを天秤にかけて、メリットがリスクを上回れば不正行為が行われるという経済的合理性に基づくシンプルなモデルが有力視されてが、実際にはもっと複雑な、一見して非合理的なメカニズムの作用の結果であることが様々な研究で証明されている。
ずるは何らかの即物的なメリットをもたらしてくれるが、最初は小さかったずるも、やがてエスカレートし、自己欺瞞だけで済むレベルを越え、衆目に露見する規模に拡大し、築き上げてきたステータスを台無しにする社会的な制裁の対象となる悪事にまで発展する危険性を内包している。
本書は、どんな人間の本性にも存在するずるに流れやすい傾向に対抗して、墓穴を掘らずによりよい人生を実現する知恵を与えてくれる。