ざっくり雑記

ざっくりとした雑記です

双子の遺伝子

 

双子の比較研究を通して発見された、先天的で不変と考えられていた遺伝子が、実は外的な影響を受けて後天的に柔軟に変化するエピジェネティクスという現象について、バラエティ豊かな事例を挙げて紹介する一冊。

 

一卵性双生児は全く同一の遺伝子を持つ天然のクローンである。

 

従来の遺伝学では、遺伝子が人間の性格や体質のすべてを決定すると考えられており、理論上、同一の遺伝子を持つ双子やクローンは、全く同じ性格と体質の人間になるはずだった。

 

だが天然のクローンである双子でも、性格はおろか、その体質まで大きく異なる事例が数多く発見されている。

 

その不思議な現象の鍵を握るのがエピジェネティクスという遺伝子の後天的変化だ。

 

遺伝子は従来考えられていたよりもずっと変化しやすく、栄養条件や様々な化学物質、ストレスといった日常的に接する環境因子の影響でたやすく変化し、それは心身の性質が連動して変化することを意味する。

 

そして、こういった変化は、世代を越えて後世にまで遺伝することがマウスなどの研究でも確認されている。

 

双子でも、片方だけが糖尿病や精神疾患にかかりやすかったり、同性愛者になったり、信心深くなったりといった、同じ遺伝子の持ち主ではありえない差異が生じている例が少なくなく、実際に遺伝子レベルでも違いが生じている。

 

それは、何らかの環境因子が遺伝子の有り様を変えた結果だ。

 

遺伝子が人間の性質を決めているのは確かだが、その遺伝子も様々な外的影響によりその有り様を左右される揺動しやすい因子でしかなく、ひいては人間の性質も安直な遺伝子決定論ですべてを説明出来るものではない。

 

エピジェネティクスという概念は、遺伝学を、数が多いとはいえ有限の遺伝子を解読してその内容を完全に翻訳するという固定されたゴールを目指すマラソンから、奔放に飛び跳ねる無限とも思える無数の暴れ牛を片端から仕留める途方もない離れ業を要求する闘牛へと一変させてしまった。

 

これからの遺伝学は、遺伝子が何をするかとともに、遺伝子が何によって変化するかも研究しなければ、その本質を究められない分野となったのだ。

 

人間を構成する要素の解明が深まるほどに、人間の限界もまたはっきりとしてくるが、その限界を規定する一因子である遺伝子の概念が大きく広がったことは、同時に人間の限界も想定より大きく広がったとみなせる。

 

人間の可能性に関する既成概念が大きく揺り動かされる一冊。