ざっくり雑記

ざっくりとした雑記です

アンダーランド

普段あまり意識しないが、地球上に生きる誰の足の下にもある、地下空間と人類の深い関わりを、世界各地のそれぞれ特徴的な地下空間を実際に巡り得た知見を元に考察した一冊。

 

優れた感性と表現力のネイチャーライターが地下世界の怪しい魅力を臨場感たっぷりに活写する。

 

冒険を追体験して興奮をおすそ分けしてもらう要素も多分にあるのだが、それと同時に地下世界というものが人間の、ひいては人類の精神世界とどのように関わり合い、どのように影響を与えてきたのか、地質学はもちろん、文化的、精神的な面からも地下世界というものを文字通り掘り下げていく。

 

その旅程の綿密な記述は、地下への物理的な潜行と、自己と人類の精神の奥深くに潜む意識に上らない性向への精神的な潜行が重合する、奇妙な感覚を読む者に与える。

 

著者はイギリスのある森で、その地下で広大な範囲にかけて繁茂する菌類が、木々の間で情報や栄養のやり取りを介在するネットワークを形成する驚異の現象について知る。

 

著者が様々な地下空間をめぐっている最中に、突然ほかの地下空間やそれにまつわる事象や史実に思いを馳せる場面がたびたび差し挟まれるが、その無意識領域における思考の飛躍的連絡は、イギリスの地下の菌類のネットワークと、その形式と働きの点でよく似ており、意識下と地下の本質における類似が示唆される。

 

稀代のネイチャーライターの洞察を入り口にして、地下空間が備える、人間を内省へ向かわせ、目に見えないが常在するつながりの認識を可能にする、特別な力の正体に肉迫する、読み応え抜群の一冊。