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贅沢で手堅いミステリー  映画『ナイブズ・アウト 名探偵と刃の館の秘密』

 

 

概要

莫大な資産を有する高名なミステリー作家、ハーラン・スロンビーが、一族が勢ぞろいした自身の誕生日パーティーの後に、ナイフで首をかき切って自殺する不可解な事件が発生する。

 

匿名の依頼を受けて事件の捜査に加わった名探偵、ブノワ・ブラン(ダニエル・クレイグ)が、それぞれに被害者と厄介なトラブルを抱えていた怪しげな家族たちや関係者を相手取り、事件の真相を究明する。

 

贅沢で手堅い

時代設定はスマホSNSががっつり活躍する現代でありながら、主な舞台は奇怪なオブジェが所狭しと並び、隠し通路があちこちに組み込まれた陰鬱な雰囲気の洋館で、「名探偵」が事件の捜査に関与するという現実にはあり得ない設定や、嘘をつくと嘔吐してしまう舞台装置じみた登場人物といった、昔ながらのミステリーの構成要素が、古式ゆかしいオーソドックスなストーリ―を踏襲しながら展開する。

 

ともすれば、種々の王道展開に精通した現代の目の肥えた観客にとっては、どこかで観たようなシーンの連続や構成は、ありふれた量産品に見えて退屈を催す。

 

が、そうこう観ている内に、徐々に当初の古臭く新味に乏しい退屈な印象は薄らぎ、不思議な魅力にどんどん引き込まれていく。

 

それは、主役から端役まで、当代一流の旬の役者ばかりを隈なく取りそろえた、贅沢にもほどがあるキャスティングの効用に他ならない。

 

当たり前の話だが、どんなに古臭く手垢にまみれた王道展開の物語でも、面白いものは面白い。

 

「手垢にまみれる」ほど酷使され続ける王道展開とは、つまりそれだけ使い勝手が良く、消費者の感動を効率よく引き出す珠玉の展開である証左に他ならない。

 

中途半端なクリエイティビティへの固執や、二番煎じの誹りへの恐怖に怯えるあまり、先人が創出した潤沢な宝石の鉱脈をあえて遠ざけるのは、自己主張が激しい割に自信に欠けた三流クリエイターが陥りがちな罠だ。

 

かといって、鉱脈から掘り出してきた原石を、特段の加工を施さず、泥まみれのまま消費者のテーブルに供するのは、無策と怠慢に外ならず、興醒めを免れないマナー違反には違いない。

 

本作はその点で非常に巧妙な作品だ。

 

潤沢な鉱脈を存分に活用しつつ、且つ、現代風のデザインカットを原石に施し、消費者の鑑賞に十分以上に耐えるクオリティを実現している。

 

新しい酒は新しい革袋に盛れ、という慣用句があるが、年経るほどに味を深める古酒を飲むにしても、同じく年経てほこりにまみれてひび割れた革袋で飲むよりは、張艶のある新しい革袋に移し替えて飲んだ方が、小綺麗で清潔な分、気分良く美味を堪能できる。

 

年月を経ても色あせず、むしろその普遍性と興趣が際立つ、真に良質なコンテンツの価値が、時代遅れの経年劣化した外観のせいで不当に過小評価されるのは、残念ながら間々ある過ちだ。

 

本作はそんな風潮に真っ向勝負を挑んだ、気骨ある意欲作として成功した。

 

新奇なものだけを良いものとして称揚するきらいある現代で、「時代を越える良いものの良さ」を改めて世に知らしめるには、誰一人をとってもそれだけで一本の名作が成立するような、錚々たる旬の大物を特盛にキャスティングしなければならなかったと考えると、本作の制作を実現した関係者の胆力と調整能力には、端倪すべからざるものがある。

 

贅沢で手堅いミステリーは観ていて安心感がある。

 

小手先の子供だましに頼らない、熟練の大技で畳みかける横綱相撲の安心感だ。

 

エンディングクレジットの名前の序列で犯人が分かるという、ミステリー映画のお約束までご丁寧に踏襲しているところはご愛敬。

 

ミステリーに対する並々ならぬスタッフの思い入れが随所に垣間見え、徹底して作り込まれたディテールは、作品に重厚な印象をもたらしている。

 

その最たるものとして、作品のメインビジュアルとなっている、無数のナイフを放射状に配した剣呑なモニュメントの禍々しい在り様は、画面の隅にちらりと映り込むだけでも、観客の胸に得も言われぬ冷たい緊張感を呼び起こし、「ミステリー」の名にふさわしい、神秘的で怪奇な雰囲気を盛り立ててくれる。

 

古典的なミステリーの文法に慣れ親しんだ昭和生まれが楽しめるなら、前知識の希薄な世代は、更に新鮮な気持ちで本作を楽しめるはずだ。

 

最新の映像技術と旬の役者陣で、良質なミステリー映画に初見で触れる若人がうらやましくてしかたない。

 

そしてアナ・デ・アルマス

そしてアナ・デ・アルマス。

 

『007 NO TIME TO DIE』『ブレードランナー2049』で際立った存在感を放った気鋭の若手女優、アナ・デ・アルマスは、主人公の名探偵の相棒ポジションにして容疑者という難しい役どころを見事に演じきった。

 

hyakusyou100job.hatenablog.jp

 

hyakusyou100job.hatenablog.jp

ここ最近に観た映画におけるアナ・デ・アルマスとの遭遇率は高く、見る映画見る映画すべてに、アナ・デ・アルマスが出演しているような錯覚を覚える。

 

なんだか年々若返り、且つ更に可愛さに磨きがかかって、というより神がかってきているように見えるのは気のせいだろうか。