ジョン・ウィック:パラベラム
極限まで無駄をそぎ落とし確保したふんだんなリソースを贅沢にも殺陣に極振り全ツッパした、頭空っぽにして楽しめること請け合いの痛快娯楽殺し屋アクションムービーの限界突破な三作目。
めったやたらに人を大量殺戮するバイオレンスアクション映画は、観始めて最初のうちは刺激的なシーンの連続でアドレナリンが噴き出し、いい感じに興奮して楽しめるのだが、画面映えする殺人手段のバリエーションなんてたかが知れており、案配を心得ていないと一本調子の刺激に食傷をきたし、阿鼻叫喚の死屍累々がこれでもかこれでもかと畳みかけ画面を埋め尽くしているにも関わらず、眠気を催すほどに退屈してしまう場合も少なくない。
その退屈対策として、人間ドラマや濡れ場や緩急やコメディなど、他の要素をミックスしてバイオレンスがもたらす映像効果を減衰させないよう配慮と工夫を凝らす作品がほとんどだが、ジョン・ウィックシリーズはそういった小手先を一切排した、ほぼほぼ純粋なバイオレンス、しかも殺陣に特化した作品であるがゆえに、観客を飽きさせず、エンディングまで釘づけにしておくためには、バイオレンスという単一の道具立てだけで十分なバリエーションを確保しなければならない。
一作でも場合によってはなかなか厳しい制約だが、それがすでに三作目であるというのだから、制作陣にのしかかるネタ切れの苦悩は想像に難くない。
だが、そんな余計なお世話もいいところのメタ的心配など、映画開始五分で雲散霧消する。
バイオレンス文化の懐の深さと制作スタッフの創造性、そしてジョン・ウィックという寡黙な暴力の化身をストイックに演じきったキアヌ・リーヴスと脇を固める演者たちの確かな力量と作品に懸ける情熱には、興奮を通り越した感動と感謝さえ覚える。
銃や刃物や格闘でのバイオレンスは当たり前の標準装備として、本作のジョン・ウィックは、およそ暴力とは縁遠い本から始まり、バイクや馬や犬や、思いもよらない事物を臨機応変にかつ巧みに駆使し、無尽蔵にポップする殺し屋の大軍を小気味よく蹂躙していく。
クライマックスのバトルは和風アクションを基盤にしたオーソドックスなスタイルだが、個々のアクションがワンランクあか抜けて洗練されたスタイリッシュなものであり、色鮮やかな超大型ディスプレイの美麗な光彩が照らし出す、壁はおろか天井から床から階段から全てガラス張りの大部屋を戦場とする、視覚的に遮るものがほとんどない戦場で、くんずほぐれつの格闘アクションとめくるめく剣閃、そして割れ砕けるガラスの細片が輝きを散らすチャンバラアクションを隅から隅まで堪能できる、バイオレンスアクション好きには堪らない心遣いが行き届いたクライマックスにふさわしい集大成的バトルとなっている。
ただ、そのクライマックスのバトルが、ジョン・ウィックファンクラブガチ勢による接待バトルであり、ごくわずかながら緊張感がそがれてしまったのが玉に瑕だった。
さすがにもうこれで最終章だろうと思っていたら、なんと続編、さらには続々編の制作まですでに決定しているようで、バイオレンスの底知れぬ真髄を本格的に味わうのはまだまだこれからようだ。