ざっくり雑記

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幸福について

ドイツの高名な哲学者、ショーペンハウアーの晩年の著作の人生論に関する部分の抜粋。

 

ショーペンハウアーが本論を著述した時代から200年ほどが経過し、技術や文化が激変したにもかかわらず、出てくる洞察のどれをとっても違和感なく通用する普遍不朽の真理であるあたり、すごい哲学者がすごい哲学者たる所以だと実感できる。

 

自分のようなうだつも気分も上がらない、「幸福」とは無縁の生活を送る人間にとって、本書の中の「一生の総決算を幸福論的な見方に立って引き出そうとする場合、自分の享楽した喜びによって勘定を立てるべきでなく、逃れた災厄によって勘定を立てるべきである。」という一文は、将来に垂れこめていた鬱々とした暗雲を晴らす救いになってくれた。

 

今この時まで、度はずれた耐えきれないような苦痛も不幸もなく生きてこれただけですでに幸福なのだと実感できる。

 

難解になりがちな哲学者の著作としては、翻訳の力もあってか、平易な言葉づかいで読みやすく、論理を丁寧に追っているので、自分のような読解力のない人間でも時間をかけてよく咀嚼して読み込むことで著者の言わんとしていることが腑に落ちるところまでしっかりと把握できた。

 

生きているだけで丸儲け、足るを知るは富む、すべて世は事もなし、のような、著者の考える幸福論と同じ意味をあらわす簡潔な格言は多いが、常人がその意味を深く理解し、心の芯まで染み込ませ人生観を修正するためには、ハイレベルな哲学者の透徹をじっくりことこと追体験する必要があり、その点で本書は自分に合っていた。