ざっくり雑記

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哲学と宗教 全史

無類の読書家である著者が、膨大な読書量に裏打ちされた博識を存分に発揮して、人類の思想界における重要分野である宗教と哲学の歴史をとことんわかりやすくまとめた一冊。

 

本書で取り扱う人名や地名、宗教や哲学思想、科学用語など、固有名詞や専門用語を羅列するだけでもめまいがするようなおびただしい分量になるが、筆者がすごいところは、それぞれの言葉の背景を知悉し、なおかつ筆者なりの見解を持ち、さらには相互の時空間的配置や論理的関係を明瞭に筋道立てて整理して体系立て、読みやすい文章に落とし込む、知的消化能力である。

 

さらに、本のデザインも、筆者の頭の中のすっきりと整理整頓された情景をビジュアル化してそのまま写し取ったかのように、読者の読解を容易にする工夫が隅々まで行き届いている。

 

例えば、重要人物の肖像が初出の時だけでなく、再度文中に登場した時にもわざわざもう一度掲載されているのは、貴重な紙面のスペースを費やしてでも、反復によって読者の頭に該当する人物の印象をより強く刻み込もうとする配慮である。

 

「本」というものの本来の存在意義は、既存の知識の伝達にある。

 

いくら素晴らしい内容の本でも、読後に読者の頭に何一つ内容が残らなければ意味がない。

 

無類の読書家である筆者だからこそ、本というメディアの特性を余すところなく詰め込んで、自分の卓抜した知見の概要をより効率的に読者に伝達するツールとして実体化できた。

 

宗教と哲学、しかもその全史なんて、どう料理しても固く飲み込みにくくなりがちな題材であるにもかかわらず、文体と構成と本自体のデザインが秀逸なおかげでさらさらとかっ込めてしまう、宗教と哲学の入り口としては出色の一冊。

 

読書家の筆者が薦める、それぞれの項目で取り上げた参考文献も興味がそそられ、読めば読むほどさらに本が読みたくなる、読書好きにとっては麻薬みたいな本である。