ざっくり雑記

ざっくりとした雑記です

逆説の日本史3 平安建都と万葉集の謎

逆説の日本史シリーズの3巻目。

 

前巻に引き続き、怨霊信仰の視点で称徳天皇の業績や平安建都の経緯など、古代の歴史的な出来事の再評価を図りつつ、言霊信仰という新たな視点を導入して日本最古の歌集である万葉集を分析し、文学作品の史料的側面からさらに当時の世情を的確につまびらかにしていく。

 

学問の専門化による視野狭窄と縄張り意識の弊害に毒されず、固定概念に縛られない自由な発想と、分野を問わない広範な史料を丹念に渉猟する調査と、小説家である著者らしい言葉に対する図抜けた感性という素地が三位一体となって本書に結実している。

 

特に万葉集の一言一句、行間紙背に込められた繊細な意味や歴史的な暗示を抜かりなく拾い上げる精妙な文学的感覚には舌を巻く。

 

その文学的感覚で分析した膨大な史料から浮かび上がる、言葉が世界の在り様を決定づける言霊信仰という概念は、科学的知見に乏しい古代の人々特有の迷妄という限定された枠組みにとどまらず、日本文化に根深く浸透し時を越えて脈々と受け継がれ、こと科学至上主義が幅を利かせる現代に至っても、我々日本人の生活や思想を強固に規定している行動原理としていまだに現役だと著者はいう。

 

1200年以上前の人々と我々が共有する行動原理が示されたことで、日本史の世界が現代社会と地続きである感覚が一層強まった。

 

畢竟、今この時も、時の流れにかみ砕かれて否応なく順次歴史の骨肉に代謝され、遠い未来の人々の議論の的になる謎にまみれた時代の一区分であるという、当たり前だが全く意識していなかった事実に思い当たり、突如として自分が属する時間スケールが途方もなく拡張される感覚に陥り、本書読了後、しばし呆然としてしまった。