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映画『ドクター・ドリトル』動物たちの愛嬌に癒される

 

ドクター・ドリトル (字幕版)

ドクター・ドリトル (字幕版)

  • 発売日: 2020/09/18
  • メディア: Prime Video
 

 

どんな映画?

動物と話せる不思議な特技を持つ名医ドクター・ドリトル(ロバート・ダウニーJr)が、宮廷の陰謀で毒を盛られ瀕死の床にある女王の命を救うため、伝説の「エデンの樹の果実」を求め、冒険家である亡き妻が最期に旅した秘境の島を目指し、仲間の動物たちとともに大海へ乗り出す。

 

行く手に待ち受ける恐るべき怪物と幾多の難関や、ドリトルの才覚を妬み彼を目の敵にする女王の主治医マッドフライの妨害が、一行の旅路を阻む。

 

感想

導入部では、妻を失ったショックから世間に背を向けて引きこもったドクター・ドリトルの現状と動物と話せる特技、彼の周囲を取り巻く個性的な動物たちのキャラクターや関係性、助手となるスタビンズ少年との出会いなど、基本情報が懇切丁寧に描かれ、十二分に設定や状況を把握し、物語の世界に余裕を持って没入できる。

 

だが、満を持して魅せ所となる海洋冒険シークエンスに入るや否や、ダイジェストと見紛う急転直下の高速展開にギアチェンジし、徐行運転だった導入部からの緩急の落差に面食らう。

 

精巧なCGで再現された、体毛一本一本まで生き生きとした動物たちの挙動や、壮大な自然の風景が織りなす大冒険が、息つく間もなく次から次へと雪崩を打って押し寄せる後半は、前半のスローペースのぬるま湯に浸かり油断した感覚には刺激が強すぎて、調子を合わせるのに少々の努力を要する。

 

人間の登場人物たちは、そろいもそろって古典的な児童文学にありがちなステロタイプなキャラ付けで目新しさに欠ける一方で、ドクター・ドリトルを取り巻く動物たちは多種多様なことに加え、種の一般的なイメージから逸脱したユニークな性格や深刻な悩みの持ち主といった一筋縄ではいかない曲者ばかりで、観ていて退屈しない。

 

人間たちとは対照的に複雑な性格造詣が施された動物たちの掛け合いは軽妙で滑稽で、時に精悍な勇気や希望を示し、時に涙を誘う。

 

積極的で主体性にあふれたオウム🦜ポリーや、冷え性のシロクマ🐻ヨシ、臆病な小心者のゴリラ🦍チーチーなど、外見と内面が見事に正反対な動物ばかりなのは、世間に蔓延する外見で内面を判断する差別主義に対するアンチテーゼの寓意なのだろう。

 

動物たちの複雑な多様性を寛容に受容し心を通じ合わせ、コンプレックスに深く共感して克服を援助するドクター・ドリトル自身は、同族のはずの人間たちにだけ理解されず、行く先々で奇異の目で見られ浮いてしまっている。

 

多種多様な動物たちが互いの多様性を受け入れ絆を深め冒険を乗り越え成長していくのに、人間だけが狭量な偏見に囚われ浅薄な固定観念を衝突させ争う、皮肉な対称性が本作ではあからさまに誇張して描かれる。

 

クライマックスはいきなりロード・オブ・ザ・リングになってしまい、物語の加速度は第一宇宙速度を突破して、さらなる苛烈な置いてきぼりの追い打ちで観客を翻弄するが、ドクター・ドリトルの人柄を反映した心温まる大団円の満足感で、小さな戸惑いなどどうでもよくなってしまう。

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終わりに

ストーリー展開の適切なスピード感の設定や整合性に粗は目立つが、それ以上に個性的な動物たちの奔放な活躍が際立ち、愉快爽快な冒険活劇として仕上がっており、視聴後はすっきりした気分になる。

 

『アイアンマン』や『シャーロックホームズ』などと同じく、本作でも余人の理解を拒む奇矯な天才をロバート・ダウニーJrが演じているが、本質的に暖かい心根と高い共感性の持ち主であるドクター・ドリトルに、天才にありがちな抜き難い孤独感はなく、彼を仲立ちとした人間と動物たちの種を超えた交友は観ていて微笑ましい。

 

対立と分断が席巻する娑婆の辛苦をしばし忘れ、動物たちの愛嬌に癒される動物映画の秀作。