ざっくり雑記

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クジラアタマの王様

この本が出版されたのが2019年だと知って驚く。

 

感染症が作品を盛り上げる道具立ての一つとして取り上げられているのだが、2020年初頭から現在に至るまでの世界や日本における感染症に関する一連の騒動をモチーフにしてそのまま書き起こしたのではないかと思えるほど描写が現実をトレースしたように真に迫っており、これまでの現実世界の感染症騒動の一部始終を振り返って追体験しているような錯覚に陥る。

 

あまりに現実と相似しているため、該当するパートに関しては、どのように状況がエスカレートしていくか、印象的な記憶を思い起こすがごとく、手に取るように予測がついてかえって面白みが減じてしまったほど。

 

パンデミックのような災害に対する社会や個人の反応には、時代や地域の背景を超えた普遍性があり、卓抜した洞察力と想像力があれば当然の論理的帰結として高い精度で予測できるのかもしれないが、あまりにタイムリー過ぎて、作者には予知能力があるのではと本気で疑ってしまう。

 

奇しくも、作中でも登場人物たちが自分たちの未来を疑似的に占う夢を見るという設定が登場しており、作者も現在の状況を予知夢で察知したのではないかと突拍子もない想像が膨らんでしまう。

 

なんだか二重の意味で夢と現実の境界がぼやけてしまう本。