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現場で生まれた100のことば

 

現場で生まれた100のことば―日本の「ものづくり」を支える職人たちの心意気

現場で生まれた100のことば―日本の「ものづくり」を支える職人たちの心意気

  • 作者:小関 智弘
  • 発売日: 2008/11/21
  • メディア: 単行本(ソフトカバー)
 

 名工と呼ぶにふさわしい、卓越した技術を誇る町工場の職人たちの心意気を反映した含蓄に富んだ珠玉の至言の数々を、贅沢に100個精選し解説を添えてまとめた濃密な一冊。

 

本書に居並ぶ質実剛健なことばたちは、プレスの轟音が鳴り響き、旋盤で切削された金屑が山積する町工場の現場で、自身旋盤の熟練工である著者が収集した、産地直送の生粋の一家言の精鋭たちだ。

 

 

一言で町工場や職人といっても、その裾野は広く、発言者が携わる分野は千差万別だが、柔弱な言い訳や見掛け倒しの理論が全く通用しない、制作物の出来だけがものをいう実用一点張りの現場から生まれてきたことばには、どっしりと腰の据わった重々しい説得力が共通している。

 

同じようなコンセプトで、なまじっかの専業ジャーナリストが取材しても、これだけ良質な言葉は集まらなかっただろうし、的確な解説も添えられなかっただろう。

 

長年職人の世界に身を置き、職人の世界を骨身を以て知悉した著者の地盤と視点があってこそ記述できた唯一無二の内容となっている。

 

100分の1ミリとか1000分の1ミリとか、髪の毛が大木に思えるような極限の精度が要求される世界で生きてきた著者の職業的気質を反映した、無駄がそぎ落とされた簡潔明瞭な文体は力強く滑らかで、目から入ってきたことばはどこにも引っかからずにスムースに脳まで届き、読んでいてストレスがない。

 

さらさらとページがめくれ、不要な騒音や振動を発さない精巧な機械を操作しているような爽快な読書感がある。

 

昨今では、労働は苦しいもの・辛いものとして一般に認知され、労少なくして益を増す卑賤なアイデアや小手先のテクニックがもてはやされる風潮が蔓延し猖獗を極めているが、本書で語られることばには、労働に含まれる技術の上達や問題解決の過程そのものが持つ本来の喜びや楽しみを活写した表現が多々あり、読んでいると労働の捉え方が改まる思いがする。

 

日々技術の限界に挑戦し続けることに喜びを見出した、職人という現代の求道者の心意気の一端に触れられる一冊。